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光る |
客を待たせる事は本意ではないのだが、想定よりも手間取ってしまい、跡部が来た頃になっても手塚は机から離れられないでいた。
「すまない、下で母達と居るか?」
「構わねぇよ。すぐ終わんだろ?わかんねぇとこあんなら、教えてやっけど?」
「いや、問題ない」
手塚とて成績は悪い方ではないが、跡部は首位を譲った事がないそうだった。得意科目全教科と豪語するだけの事はある。
さすがだな、と感心してみせた手塚に、跡部はつまらなそうな表情で、「別にな、常に単独ってわけじゃねぇよ。うちの眼鏡が並ぶ事もある。あの野郎、日頃手ぇ抜いていやがるからな」と忌ま忌ましそうに上がった話題の主は、氷帝の忍足の事だろう。
外観が似ていると言われた事があるが、よくよく知り合えば全く違う。手塚にはあの物柔らかさは用得れるものではないし、どこか底の知れない胡散臭さ(これは跡部の口にする忍足観から発しているのかもしれないが)にも及ぶべくもない。氷帝の天才、不二とは違う意味で要注意人物だ。
「あと少しだ。そうは待たせないと思う」
「焦んなくていいぜ。何か本、借りていいか?」
「好きなものを取ってくれ」
「ありがとよ」
ふいの接近に心を揺らしながら何とか冷静に答える事ができた。ふわりと漂ってきたのは、鼻腔を擽る柔らかな香り。跡部は何か香水を常用しているらしく、独特の香りをその身から放つ。きつい香水をつけている女性と擦れ違った際などは、思わず眉を潜めてしまう手塚であるのだが、跡部のそれはさり気ない香りであって、余程接近しないか嗅覚に優れた者でなければ気づかぬぐらいだ。そして、その香り自体も、手塚にとっては好ましい類のものであるのも、不快さなど感じようがない理由の一つだ。
緩みそうになる口元を手の甲で押さえ、ふいと視線を逸らした先はちょうど跡部のすんなりと伸びた首筋から耳元へのラインが目に入る位置で。余計に体温が上がりそうだと眩暈を感じはしたが、きらりと光る耳元が意識を捉えた。
「―――跡部」
「アーン?」
あの、ずしりと受けた腕に負荷をかけてくる、パワーテニスをするとは到底思えない細く締まった手首を捉える。掴んだ手には必要以上の力を込めてしまったらしく、跡部の秀麗な目元が僅かに潜められた。
「痛ぇよ」
「――あぁ、すまない。それより、その耳は何だ?」
「耳ぃ?」
疑問符口調で跡部は耳元にかかった柔らかそうな髪をかきあげた。それによって、覆い隠されていた耳元が露になる。耳たぶに飾られた、装飾品もだ。
「もしかして、このピアスの事か?」
「そういうものは、普通女性がつけるものではないのか?」
「別に男も女も関係ねぇよ。似合ってりゃ問題ないこったろ」
「――――確かに、似合っていない事もないが・・・・」
「なら問題ないじゃねーか」
「・・・・・・・・・・・・」
手塚の言葉に跡部はにっと、得意気な笑みを浮かべる。
手塚の周囲には、そういった装飾品を好むような同姓は存在しないのだが、跡部の顔立ちに確かにその耳飾りは映えていた。生来の白い肌に、瞳の色を模したのか蒼の石を埋め込んだ飾りが何かの瞬間、光を放つ。それは、楽し気な事を思いついた瞬間に煌かせる跡部の瞳に似通っているとも言えなくもないが・・・・・・。
「校則違反なのではないか?」
「相変わらず堅ぇ奴だな。まぁ青学はどうだか知らねぇが、氷帝では規則違反じゃねーぜ?大体、日本ぐらいだろ。んなモンに目くじら立てんのはよ」
「そういう、ものか?」
「そーいうもんだよ」
「・・・・・・・・・そうか。すまない。跡部の生活スタイルにまで口を出すつもりはなかったんだが」
侘びを入れると跡部は、「まぁ、手塚だからな、」とふっと笑みを浮かべた。僅かにからかいを含んだ瞳は、視線と捉え、惹き付けて止まぬ光を放つ。それは、どれ程高価な宝石であろうと、敵うものではないように思える。
これほど宝石よりも輝かしい双眸を持っているのに、何故あんな飾りが必要なのだろうな、と思う所が手塚の正直な感想である。
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