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光る |
カチカチと、視界の端を掠めた光に宍戸は視線を眇めた。
空を見上げれば腹が立つくらいの快晴。それは、良い。朝より序々に上がりつつある気温も、耐え切れぬという程ではない。
これからコートに上がり、緊迫した試合展開ともなれば、湿度・温度その他の気候条件も一つの敵となるにはなるが、それでも真夏の炎天下に比べればものの数ではない。
氷帝メンバーは、そのユニフォームの色合いからの印象なのか総じて涼し気だ。
対して、反対側に陣を構える青学メンバー陣は、その濃い青色のせいなのか、それとも揃えた選手の質がそうであるのか、どうにも温度差が1度か2度はあるように見えた。
そんな中で、一人周囲の喧騒に揺れる事なく静かな佇まいの奴が居る。恐らくは、雨が降ろうと雪が降ろうと何があろうと、あの男を崩す事はできぬに違いない。同学年なのだから、同年代である筈なのだが、どう贔屓目に見てもあの落ち着きぶりは成人のそれにすら匹敵する。
氷帝の部長である跡部もまた、年齢よりは大人びて見えるし、事実中身の方も老成しているのだが、それでも付き合いの長さからなのか近くに居る故なのか、自分とそう変わりないのだと思う事も少なくない。
どちらにしても言える事は、跡部にしても手塚にしても、普通の中学生にある子供っぽさからは程遠いという事なのだが。
「――――で。何やってんだよ、お前は」
「うるせぇ」
一言で言い捨てた跡部は、きつい視線で構うなとばかりに宍戸を追い払おうとした。しかしながら、未だ素直さの残る1年ならばいざ知らず、宍戸相手では跡部の眼光の威力も半減であるのだ。
「チカチカやられてっと、目障りなんだよ」
「だったら目ぇ潰れ」
「テメー、なぁっ!!」
あまりな物言いに跡部を怒鳴りつけようとした宍戸だったが、日頃の部長然とした顔が嘘のようにそこにあるのは子供っぽいとすら言える拗ねたような表情で・・・・そんなモノを見てしまえば、一応幼馴染な関係である宍戸としては、毒気を抜かれてしまう。
「・・・・・・もう一度聞くぜ。お前はさっきから何をやっていたわけよ」
「打ち合わせだ」
ここで突っかかるように話せば会話も進むまいと判断し、宍戸はあまり多くはない忍耐力を総動員させてなるべく穏やかな口調とする事を己に制した――のだがしかし。
跡部はそんな宍戸の努力を粉微塵にしてくれる小憎らしい態度を取ってくれた。
これは気遣い無用の相手だからというよりも、自らを抑え切れぬ程に機嫌が悪いという事なのだろう。
「打ち合わせかよ。で、誰と?」
「向こうでふん反り返っているいけ好かねぇ青学部長相手だ」
「あそ」
聞くまでもないというか、聞いてやはりと思う所なのか、つまりはまぁ、そんな答えである。
青学と氷帝は今まで仇敵といえる程に何かと張り合ってきた。跡部と手塚の二人も、伝統にちなんだのか生来の気質故か、会えば当たれば静かな火花を散らす(主に跡部が)関係であった。だが、ここ最近は二人の間で親密に近い交流関係が築かれていると聞いていたのだが・・・・どうやら何か一悶着やらかしたらしい。何も練習試合の直前にやる事もないのによ・・・・・と、とばっちりを食いそうな展開に宍戸は気が重くなってきた。
どだい手塚が相手では無理だと思っていたのだ。跡部は癖がありすぎるし(それゆえはまるとたまらない所もあるが)、手塚は見た限りでも融通が効かなく頑固そうであるし。小さな喧嘩は今までにもあったようだが今回のは決定的に近いのだろう。
激ダサたぜ、と思う一方で、何処か心が軽くなる感じもある。実の所、少しばかり嫉妬をしていたのだ。
手塚国光という存在に。
楽し気に手塚の事を話す跡部の口調に、その晴れやかなる笑みに。
それは宍戸に限る事ではなく、ジローや岳人、その他跡部と親しくしている者に共通する思いでも。まぁ、幼馴染み的にはいろいろと複雑なのだ。
そんな感慨に耽っていると、今度はカチっと青学サイドが光った。
跡部の目がすうと薄くなる。
温度が2、3度は下がった気がした。
跡部の手元が緩やかに動き、再びカチカチと光りを発す。
それを受けて今度は手塚が返す。
そんな事が数度続けば、いい加減周囲も気付く。だが、不機嫌真っ盛りの両部長のオーラに臆し、敢えて尋ねる事もできないのが実情だった。
「おい、いい加減にしろよ。お前らがそんなんじゃ、空気悪くて仕方ねーぜ。口で話すのが嫌ならせめてメールでやれよ」
それも見た目的にどうかという所ではあるのだが、今よりはマシだろうと宍戸は代替え案を出した。いや、そもそも最初からそうすりゃいいじゃねぇかと思うのが正直な所である。
「使えねぇよ。着信拒否にしてある」
「―――お前、なぁ。くそ、ならせめて筆談でいけよ」
「構まねぇが・・・・・・言ったからにはてめーが返事を聞いてこい」
「あ?んで俺がぁ!?ざっけんな!」
さらさらっと書き付けたメモ紙を跡部に突きつけられた宍戸から、悲鳴とも怒声ともつかぬ叫び声が上がった。
氷帝学園 VS 青春学園。
因縁の対決試合は、未だ始まりのベルすら鳴らぬようであった。
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