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光る |
「―――よぉ」
「久しぶりだな、跡部」
正門前に着いたと連絡を受けて迎えに出ると、見間違えようのない目立つ風体の人物が立っていた。
「そんなに間、空いてたか?」
「前に会ったのは桜の咲く前だと思ったが」
充分に「久しぶり」という言葉が相応しいだろう?と目線で問うと、「ほんの1〜2ヶ月だろ」とすげない返事が返ってきた。この辺りは手塚と跡部の温度差なのか。それともただ単に多忙を極めるらしい跡部とすると、本当に大した日数ではないと思えるのかもしれない。
「今日は部活はねぇのか?」
「あぁ。昨日、練習試合があったからな」
「ふ、ん。今年の青学の仕上がりは順調ってわけか」
「敵に情報は渡せない」
「そりゃ冷てぇなぁ、クニミツ君よぉ」
「・・・・・・・・・・・・・」
本意ではないのだろうに、そんな風に言ってきた。これ見よがしに名を呼んだ事からして、真実責めているわけなどではない。ただ単に面白がっているだけだ。全くこんな時ばかり名を呼んでくれる・・と、手塚は溜息をつきたい気分となった。
黙したまま跡部の前に立ち、先を歩く。何も言わずとも後をついてくるだろう事は疑わない。手塚は元々饒舌な方でないし、先の会話の場合跡部が手塚の事をからかったという構図だ。その結果として手塚が不快を感じ、怒りを抑えていると取れなくもない沈黙。普通ならばそう取るのだろうが・・・・生憎跡部は手塚の沈黙を気にもしていないようだった。背後で聞こえる鼻歌からもそれと知れる。
はぁと、再びこみ上げてきた溜息を、それでもなるべく抑えて吐いた手塚は、意識転換とばかりに横へと視線を向けた。フェンスの向こうであがった笑い声と歓声に、つられるようにそちらを向いたと言えなくもないが。
「随分早ぇプール開きだな」
「・・・・・・いや、まだだ。気温的には充分暑いが、水泳部のプール使用は6月からと申請を受けている。ああ、今日はプール掃除をすると聞いていたな」
見るとは言うよりただ視線を向けていただけの手塚であったので、プールサイドに溜まっている者達を風景の一部として捉えていた。
満潮―――というか、完全には水は満ちていない。それでも半分は超え、大体7分目ぐらいだろうか。澄んだ水が太陽の光を受け、きらりと反射させた。
「少し前まで藻がすごかったが・・・・まぁそれでも昨年程ではないか」
「何か違うのかよ」
「昨年までは魚を放していたんだ。冬季限定の釣り堀としてな」
「職権乱用じゃねぇ?生徒会長さんよ」
呆れたように言う跡部は、手塚が自分の趣味を通して期間限定の釣り堀を造ったとでも思っているようだった。冗談ではないと思う。跡部ならばやりかねないと思うが(それを言えば罵倒罵声をノンストップで浴びせられるだろうが)、手塚はそのような事はしない。まぁ、職権乱用と言えばそう言えなくもないのだが。手塚ではなく教頭の趣味がそれであるのだから。
ただし、それも昨年までだった。生徒の中に釣りを趣味とする者は多くはなかったし、プールの清掃の際に釣り針が落ちていると危ないという意見もあった。さらには、水泳部の女子生徒から多大なブーイング的陳情も手塚の元に上がっていた。プールの清掃は彼女達が一手に引き受ける事となったのだが、水を抜いた後の大量の藻に塗れ足元で蠢くおたまじゃくし等に閉口したらしい。
その件を跡部に伝えると、跡部は実に嫌そうな表情を浮かべて手塚から一歩引いた。先程の意趣返しと考えて良いのかもしれないが、引かれるとなるとまた別の意味で望まぬ事態とも言える。
「うぇ、想像したかねぇな」
「そういうものか?跡部は生餌も手で触れるだろう?」
「手で触るのと踏み潰すのは別だろっ!ああ、だからプールサイドに居るのは男がメインなのか。女子に総スカン食らったか?ん?あそこで固まってんの、テニス部の奴等じゃねぇ?」
「何?」
言われてまじまじと手塚はプールサイドを見直した。跡部の指摘通り、そこには確かに見慣れた顔が並んでいる。
「あいつら・・・・今日は休みだと言っておいたのに・・・・」
「だから自由にしてんだろ。・・・・誰かプールに突き落とされたな。桃城、だったか?おー、もう一人引きずり込みやがった」
「・・・・・・・・・・・・」
跡部に解説されるまでもなく、手塚にもその光景は見て取れた。プールサイドで騒いでいる部員達は、羽交い絞めとなり突き落とされる寸前の者も入れば、すでに水中にあり盛大に水飛沫を上げながら何やら攻防をしている奴も居る。どうやら先に落ちたのが桃城で、その桃城に引きずり込まれたのが海堂らしい。
「無邪気なもんだね・・・・って、手塚?お前そこまで不機嫌面する事ないんじゃねぇ?」
「・・・・・・・・・・地顔だ」
「んなわけねぇだろ。幾ら仏頂面とはいえ、いつもはもう少しマシだぜ?いーじゃねぇか、お堅い部長さんの下で日頃溜め込んでんだろ。たまには発散しねぇとなぁ」
「それでは俺があいつらを頭ごなしに抑えつけてるみたいではないか」
「自覚ねぇの?」
嘘だろ?マジで?とばかりの表情で切り返されて、手塚の渋面は益々深く渋くなった。
「・・・・・・・・・・そういうお前(氷帝)の所はどうなんだ」
「制御不能」
「何?」
「抑えて大人しくなるような奴等じゃねぇっての。ったく、今日も俺様が居ないって事で何処まで羽目外してやがんだか・・・・一応樺地を残してあるから、報告はしっかりさせるが・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
今度は跡部の方が苦虫を噛み潰したような表情となった。お互い、部長稼業は大変だ・・・という事らしい。
「ま、今考えても仕方ねぇか。それより手塚よ、俺達も行ってみようぜ?」
「何故だ。プールになど用事はない」
「いーじゃねぇか。あぁいうもんは、見ているだけじゃつまんねーよ」
「待て跡部っ!引っ張るんじゃないっ!」
制止する手塚に一切構わず、跡部はぐいぐいと手塚の手を引き、プールの方へと向かっていった。
その後、何故氷帝の跡部が此処へ・・?とひと騒動は上がったが、その内に一年生部員が次々にプールに落とされ、そして悪ふざけに乗った菊丸に大石が落とされたりと、その水飛沫を受けて不二が豹変したりと、別の騒動が次々と起こり、何故だか最初の疑問は曖昧のままに、しっかり跡部も青学部員達に混じりふざけ合っていた。
ここぞとばかりに3人がかりでプールに突き落とされても跡部は怒らず、慌てて手を差し伸べ引き上げようとした手塚の腕を引き、一挙にプールへと引きずりこんでくれたりなどした。その時水音と共に聞こえてきた跡部の笑い声は実に楽し気で、きらきら乱反射する水面の如く光っていた。
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