光る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 跡部は時折人の事を娯楽に一部か何かと考えているのではないかと思う。
 
 
 
「何か笑える話しやがれ」
「何かと言われてもな」
 
 突然言われて踊る事も出来ないし、手品で場を和ます事もできない。はっきりいって手塚は真顔で困り果てた。何しろ咄嗟の機転が効く方ではないし、そして何より跡部を楽しませるなど高度な話術など、手塚に望むべくもない。
 同じ眼鏡仲間といえども氷帝の関西人忍足とは違うのだ。だが、跡部はといえばどこか期待した瞳で沈黙する手塚を見ている。その瞳を音で表現するならば、『わくわく』といった所だろうか。
 期待と信頼には応えなければならない。手塚はコホンと一息喉を慣らすと表情を真摯に改め(この辺りからしてずれているが)跡部へと向き直った。
 
「――――聞いた話なんだが」
「何でも構わねぇよ」
「越前の事だ」
「越前、ね」
「・・・・・・・・・・」
 跡部の瞳がきらりと光る。興味を示した時特有の反応だ。自ら水を向けた筈なのに、内心何処かでむっとする。我ながら度し難いと思いながら、手塚はその先を続けた。
「怖いものがあるらしい」
「そりゃ、あるだろ。アイツだって12のガキだし?」
「一応はな」
「一応ってお前なぁ・・・・・・手塚よ、テメェにだけは言われたくないと思うぜ?」
「俺はあれほど不遜ではない」
「そういう意味じゃねぇんだけど。わかって言ってんのか?それとも素か?まぁどっちでもいいが、先続けろよ。何が怖いんだって?」
「―――赤い目だ」
「目だぁ?」
「俺が不在だった当時の事なんだが・・・・越前は立海の切原と対戦した事があるらしい」
「確か青学も野試合禁止だろ?つくづく血の気の多い奴だな。それで?切原の奴が怖いって?あのワカメ2号を越前が?」
「・・・・・・何だそのワカメ2号というのは」
「1号が幸村だからだ」
 頭痛を抑えて手塚が問うと、跡部はあっさりとそんな風に言い切った。頭に思い浮かべるは、昨年立海を率いて陣頭に立っていたまだ健康な頃の幸村の姿。まぁ確かに――ワカメと言えない事もない。―――だが。
「―――その表現は・・・・微妙ではないか?」
「いいんだよ。あのヤロウ、こないだ見舞いに行った時に何抜かしたと思う?」
「想像も出来ないな」
 実際あの幸村が跡部を前にして何を口にしようかなど、想像すらできない。
 
「『
やぁ、久しぶりだね。元気そうだ。今日も無駄にきらきらしいね、跡部は。歌舞伎町から直行かい?稼ぎ頭は大変だな』 とか抜かしやがったんだぜ。表情だけなら穏やか極まりない笑みを浮かべて、な」
 
 御丁寧にも跡部は幸村の口調を真似してくれた(しかもこれがまたよく似ている)。
 
「・・・・お前達、その殺伐というか・・・・会話に毒を孕んだ関係はどうかと思うぞ」
「別に仲悪かねぇぜ?元々幸村の奴は毒舌家だ。長い入院のせいで鬱屈が溜まってるみたいだしな、時折立海の連中泣かされているらしいぜ?で、俺様が奴のガス抜きをたまにしてやてるってわけだ。その見返りとして、立海には顔パスだ」
「そういうカラクリがあったのか」
 手塚の口調が少しばかり呆れたようなものとなる。跡部は全国大会に臨む前、立海に単身乗り込んだと聞いた。そこで真田を相手に人騒動起こしたとか・・・・。全く跡部は目を離すと何をしでかすかわからない。
 
「―――切原と対決した際に、切原の両眼が真っ赤になったらしい」
「ああ、アレね」
「知っているのか?」
「話にはな。現物は見た事ねぇけど」
「そうか。それで、最後越前は気絶するようにして倒れこんだらしいな。結果的には勝ったようだが、それを知らぬまま家へと運ばれたようだ」
「ふ、ん。で?それだけか?」
「いや。話には続きがあってな・・・・次の日に練習があったんだが、越前の前に乾や大石達が並んでいたらしいんだが・・・・全員が全員共に目が赤く染まっていたようで・・・・1年の同級生3人組を含めてな見事に揃い踏んだようだ」
「ぶっ、何だよ、それ。ギャグか?」
「・・・・一応それぞれ理由はあったようなんだが・・・・一晩中走っていたとか一晩中ビデオを観て泣いていたとかサボテンが目に刺さったとか・・・・まぁ色々だな」
「にしても揃いも揃って、ねぇ。それで何か?越前の奴、切原のアレに引いていた所、赤い目の団体に囲まれてびびったのか?」
「端的に言えばそうだな。無言で倒れたらしい」
「へぇ。可愛い所、あんじゃねぇのよ」
「それで気が付いた越前の前に更なる駄目押しとして、竜崎先生が、な」
「アァン?まさか、竜崎先生も目が赤かったのか?」
「そうだ。徹夜でオーダーを作っておられたようで・・・・それで目が充血したんだ」
「――――そりゃ災難だったなぁ・・・・・・」
 
 同情混じりの言葉を吐きながら、それでも跡部はこみ上げてくる笑いを抑えきれないようだった。
 可愛がっている・・・・というより期待をかけている後輩を売ったようなものだが、跡部の関心を買い、また楽しませる役目は果たせたらしい。微妙複雑な気持ちながら、手塚はほっと胸を撫で下ろしていた。
 
 
「赤い目、ねぇ。ちっと違うんだが・・・・少し前によ、文化祭の準備中、深夜に見回りで校内廻った事があったんだけどよ」
「見回りだと?一人で行ったのか?」
「当然だろ?その日は仕事が片付かなかったんで、俺様も泊まりこんでいたんだよ」
「跡部。お前はもう少し自分の身に気をつけた方が良いと思う」
「俺様相手に誰が何をできるって?断っとくが護身術なら一通り叩き込まれてるぜ」
「いやだがしかし」
「うるせぇなぁ。次回からは気をつける。それでいいんだろ?」
「ああ。そうした方が良い」
「・・・・・・・・・・・・ち。ま、いい。とにかく、その見回りの際に廊下の片隅で何かが動いたように見えたんだ。それで俺は、その辺りを照らしたんだが・・・・」
「何があったんだ?」
 心持ち心配を込めて手塚が尋ねると、跡部は一拍の間を意味深に取り、そしてにやりと笑う。それは酷く人の悪い笑みだった。
 
「光る茸が居た」
「―――は?」
「だからよ、茸だよ、茸。懐中電灯の光を受けて、目が光ったんだ。怪しいの何のって。俺様は腹抱えて笑ったぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 普通はそういう場合、脅えるとか悲鳴をあげるとか不審者を問いただすとか・・・・もっと別の反応を示すものではないだろうか?そう思わないでもない手塚であったが、跡部に普通を求めても仕方がない。
「まさか発光性茸を校内で見れるとは思ってもみなかったぜ」
「・・・・・・茸、茸と・・・・つまり、日吉君が居たという事なんだろう?」
「お、珍しく察しがいいじゃねぇのよ、手塚ぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 察しが良いと褒められても、どうにも嬉しいとは取れない。そして同時に密かに氷帝2年の日吉若に同情の念を抱く手塚なのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 2006.05.02
 
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