光る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 最上級生が引退し、部活動は1年と2年がメインとして動かされるようになった。
 実力からして部内で最も力の有る手塚が部長に就任するのはある意味当然な事である。
 しかしながら、手塚は自分の人望にあまり自信を持って居らず、果たして自分に勤まるだろうかと思い辞意も示したのだが、かつての部長の言葉と顧問である竜崎の言葉と、そして補佐役として頑張るから・・という友人の大石の言葉に頷く事となった。
 多少の衝突はあったけれども、大石の細やかなフォローもあって部の方は良い意味で変革していった。そうして幾分落ち着いてきた頃、今度は学校運営の方にも手塚は携わる事となった。生徒会長へと就任する事となったのである。
 自分は然程器用な方だと思っていない手塚であるので、かなり負担に感じる所もあった。周囲を固める他の役員達が優秀であったので、随分と助けられている。それでも、時に全てを放り出したく思う時もあるのだ。ただ無心に、テニスだけに没頭したいと思う時が・・・・なくもないのだ。
 秋にあった選抜合宿に出れなかったのを、手塚は今でも残念に思う。夏の大会以後に、肘に不調を感じ病院へと通う事となったのは己の体調管理の甘さ故だ。普通より頑健に出来てはいても、限度を超えれば故障する。元々罅が入っていれば、亀裂は更に深まる。当然の事だ。
 
 失敗を教訓とし、それ以上の悪化を塞き止め、治療に専念する為に選抜は辞退した。部員達には、顧問である竜崎先生を含め肘の件は伝えず、部の方が心配であるという事と、生徒会の方で時間を取れる事を理由に辞退したと伝えた。真実の理由を知っているのは大石だけで・・それは他の者を信用していないというのではなく・・心配をかけたくないという思いからの事だった。一人で充分だと思っていた筈が、いつの間にやら随分と部に囚われているようだったが、悪い感覚ではなかった。
 
 夏が過ぎ、秋が深まり、文化祭のシーズンが近づくと、手塚の周囲はさらに騒がしくなった。
 祭りというと羽目を外す者も多く、また、他県からの客も多くなるので、近隣の学校において密な連絡を取れるよう、運営委員会なども発足された。
 合同文化祭というわけではないのだが、各校の文化祭においてどのような出し物をするのか、またどんな不手際があったか、何の準備が必要か、少なくない場を設けて話し合ったりなどした。特に先に開催を終えた学校のデータは、その後に開催を控えた学校にとって貴重なものとなった。最も、氷帝学園のように、プロの警備スタッフまで導入するような余裕は、普通の学校にはないのだけれど。
 氷帝学園といえば、青学において運営委員会の集まりがあった際、現れたのがあの跡部景吾だという事に手塚はいたく驚いたものだ。
 彼が氷帝で生徒会長に就任した事は知っていたが、文化祭の運営委員にまで選出されていたという事に、他人事ながら大したものだと感心する。生徒会にテニス部。そして跡部の場合は家の方でも何やかやとあるらしく、更に文化祭になどよく関わっていられる・・・・と、感心と呆れと賞賛と、それから心配の気持ちもあって問うてみれば、「何度か泊まりこんでる」と、事も無げな口調で言い切ってくれた。そんなに無理をする事はないだろうと、少しばかり叱責口調で言うと、「俺様は完璧主義なんだよ」と、くっと口角を上げるようにして笑った。
 改めて見ると以前に会った時よりも一回り細くなっているようで、倒れはしないのかという疑念が、溜息という形で現れた。だが、その手塚の反応を、跡部は「は、呆れたって面だな?」と、むしろ楽しそうに返してきた。ここで「お前が心配なんだ」と言ったら、目の前の相手はどれ程驚くのだろうか、それとも嫌そうな顔をするのだろうか、とぐるぐると考えている内に跡部は手塚の前から去ってしまった。足早に進むその背に、本当に急がしんだな、と更に手塚の溜息は深くなった。
 
 
 
 そんな行事も何とか全て終わり、幾分余裕が見える日常となった頃、手塚の横に跡部の姿という光景が時折見られるようになっていた。
 大抵は、手塚の元へ跡部が尋ねてくる。そして普通の友人同士のように互いの近況や、部や生徒会に関する愚痴や文句を取りとめも無く話していると、時間はあっという間に過ぎていくのだ。
 今日は跡部が手塚の下校を裏門の辺りで待っていた。先に時間を伝えていたので然程待たせてはいない。それでも手塚は「待たせたな、跡部」と律儀に言った。跡部はそれに対して文句を言うでもなく、否定するでもなく、ただ鼻を鳴らすに留まったが。
 
「――――っと、ちょっと待て」
 
 ブルル、と跡部の鞄が振動音を発した。手塚を手で制した跡部は鞄の中から目当ての携帯電話を取り出す。以前に見せて貰った鞄の中には複数の携帯電話があって呆れたものだが、跡部に言わせるとそれぞれ用途が違うから必要なのだという事らしい。
 どうやらチームメイトの物かららしく、ぞんざいな口調で応対する跡部の表情はそれでも薄く緩んでいた。手持ち無沙汰に跡部を注視しない程度に眺めていた手塚は、キラリと太陽光を受けて光る飾りに目を取られた。跡部の手元で小さく揺れるその飾りは蒼く、涼し気で、何処か跡部の瞳の色に似ている気がした。
 
「悪ぃ。待たせたな」
「いや」
「・・・・・・・んだよ?」
 手塚の視線が通話を切った携帯に注がれていると見て取った跡部が、不審そうに目を眇めた。
「その飾り・・・・」
「アーン?ストラップだよ。誰でもつけんだろ?」
「そういうものか?女性ならわからなくもないが・・」
「女性って、お前、なぁ。本当何歳だよ」
「お前と同年齢だ」
「・・・・・・・・・そりゃ知ってるがな」
「なら聞く事はあるまい」
「・・・・・・・・・まぁそうだな」
「・・・・・・・・・・・・」
 噛み付かれるかと思えば、妙に静かな跡部。紋きり気味となった自分の口調にしまったと思ったが、すでに口をついてしまった後であるのでもう遅い。怒らせてしまっただろうか、と表面上は平静を保ちながら、手塚は跡部の反応を伺った。
 
「お前また苛ついてんのか?」
「そんな事はない」
「はっ。たまには外へと発散しろよな。溜め込んで抱え込むから、そんなんなんだよ。不二・・・・はともかく、大石あたりにゃもう少し自分を曝け出してみろ。楽になんぜ?」
「――――考えて、おく」
「そうしろ。ああ、こいつはテメーにやる」
「別に、いらないが」
 先ほどのストラップを取り外した跡部は、それを手塚の前へと突き出してきた。
「素直に貰っとけ。こいつはアマゾナイトっつー石だ。心に潤いを与えてくれるぜ?鬱々したテメーにゃぴったりだろ」
「・・・・・・一応、ありがたく、受けておく」
「おう。そうしやがれ」
 少しばかり複雑な思いで、それでも跡部の気遣ってくれているらしい心が嬉しく、その飾りを手塚は受取った。そのまま見ている跡部の視線に押されるように、手塚は己の携帯電話にそのストラップを括りつけた。洒落っ気ひとつない簡素な自分の携帯電話に、涼やかな飾りが取り付けられた。
 
 
 
 
 
 その翌日。跡部にメールを打っていた所に通りがかった不二が、定番の笑みを更に深めて近づいてきた。
 
「あれ?手塚、随分可愛らしいというか、珍しいものつけているね」
「・・・・・・・・・貰い物だ」
「ふぅん。意味深だね」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「綺麗な石だよね。アマゾナイト。そういえば姉さんに聞いたんだけど、アマゾナイトには心を穏やかにする効果があるんだって」
「そうらしいな」
「恋愛面でもそうみたいだね。静寂志向というか、――プラトニック推奨?」
「・・・・・・・・・・・別に、それは関係ない」
「まぁ君の場合はそうだよね。朴念仁だし。あれ?怒った?ほら、アマゾナイトの力で抑えて抑えて」
「別に怒ってなどいない」
「そう?いつもより眉間の皺が深いよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 
 結局、その後も手塚は不二に散々遊ばれる事となった。
 多分―――不二は全てを知っていながら、ああ言ったに違いあるまい。
 
 
 
 
 
 
 
 2006.04.29
 
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