光る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 港に着いてからは目まぐるしいばかりで。
 殆ど拉致同然の扱いで青学のチームメイト達と共に車に乗せられ、ホテルへと強制連行された。
 
 それぞれに簡素ではあるがチープ過ぎはしない部屋が用意され、部屋割りを記した紙も室内に置いてあり、試しに大石の部屋へと内線をかけるときちんと繋がった。
 訪室しようかとも考えぬでもなかったがゆっくり休みたいかもしれないと思い、それは止めた。
 シャワーを浴びて用意されていた衣服に着替える。軽い空腹を感じたのでどうするかと考えたら、ルームサービスのメニューが目に入る。仲間達と揃って食事をしたい場合にも別室で部屋が用意されており、至れり尽くせりと言えよう。
 一人落ち着いて食する方が心静りそうだと、ルームサービスを頼んだ。五分もしないうちに熱々の料理が届き、それもけしてレトルトや暖めただけの惣菜とは見えぬ出来立ての代物で、一体どういう仕組みかと首を傾げもした。
 船の中で食べた食事の方が豪華ではあったのだろうが、こちらの方が余程美味である食事に集中していると扉を叩くノック音がった。声をかけつつ開けてみれば、いかにも高名な大学病院にでも居そうな人物が白衣を来て立っていた。
 
 健康状態を確認したいと言われ部屋へと招き入れる。
 本来ならば見知らぬ人物を部屋に入れるべきではないのだろうが、また実際いつもの手塚ならばそうしただろうが、この場においては大体のからくりは見えているので相手を疑うまでもない事である。青学の仲間の中には手塚より余程疑り深い者も居るので、彼等の場合にはもしかしたらひと悶着起きたかもしれない。
 
 「君で最後だよ、」と先に告げられたので、仲間達の状態を遠慮無く問う。「皆疲れてはいるけれど、若いから問題ないだろう」と安心させるかのように気遣いと労わりの笑みを浮かべてその医師は教えてくれた。後遺症となるような怪我もないという事で更にほっとする。
 
 医師が帰った後に手塚は食事を再開した。
 食事を終える頃まで他の訪問者はなかった。
 その後も無かった。
 ベッドに入りぐっすり寝入って明けた朝も誰も来なかった。
 
 
 ぞろぞろと、こざっぱりした格好でロビーに皆が集まっていく。皆一晩ゆっくり休み、すっかり元気になっていた。仲間を先に外へ出し、確信はしていたがフロントに念の為尋ねると、やはり会計済みだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「――――で?俺様をわざわざ呼び出して何のつもりだ?」
 
 青学のお堅い部長、手塚国光さんがよ、と皮肉気な笑みを浮かべる跡部の腕を掴み、無言で引いていく。
 最初は「おい、何のつもりかって聞いてんだろ!」と、悪態及び詰問口調で跡部の達者な口が廻りに廻ったが、手塚がガンとして口を割らないと把握すると、以降は黙って付いて来た。勿論、手塚が腕をしっかりと掴んだままだというのもあるが、それを言えば跡部が本気で振り払えば、払えぬものでもない。
 目的地に辿りつくと、手塚はようやく跡部を解放した。
「力込めすぎなんだよ」と文句を言う跡部に「ああ、すまない」と、謝罪とは取れないような声音で返すと、跡部はちっと舌打ちをした。「ったく、てめーはよ・・・・」とブツブツ口の中で呟いてはいるが、罵倒までするつもりはないようだった。跡部というのは、実はかなりな所辛抱強い男なのかもしれない。
 
「―――礼をしていなかったからな」
「ア?てめー、有り難迷惑っつー面だったじゃねぇか」
「そんな事はない。跡部の尽力がなければ皆が無事に戻る事は適わなかった。その後の対応にも感謝している。随分と無理を通したのだろう?」
「・・・・・・大した事じゃねぇな」
「お前は負担が大きい時程、そのように言う」
 何でもない場合にはそれこそ盛大に文句を言い放つというのにな、と跡部の天邪鬼ぶりを当てこすると、跡部は「何の事だ?」とばかりに冷めた顔で肩を竦めた。解り易くて解り難い。それが跡部だ。
「それで?感謝の気持ちがここ、河村寿司かよ。テメェの懐具合で賄いきれんのか?」
「出世払いにしてもらった」
「・・・・・・ああそう。その年でツケ覚えたら後が知れるってもんだな。ま、外観は違和感ねぇか」
 しっかりと嫌味も交えてくれた跡部を少しだけ睨みながら中へと誘う。連絡を入れてあったので、河村は父親と共に出迎えてくれた。跡部は基本的に利害が絡む場合、もしくは相手に特別な興味を抱いていない場合を除いては外面が良い。恐らくは河村が拍子抜けしたであろう程に大人しく、「どうも」と軽く頭を店主である河村の父へと下げた。
 
 
「跡部には俺も感謝しているよ。ちょっと気後れしないでもないけど、精一杯握るからゆっくり食べていってくれ」
「ふん。バーニングはなしだぜ?」
「はは。そんな事したらネタの味が変わっちゃうよ。遠慮しないで頼んでくれないか。今日は本当いいネタが揃っているんだ」
「まあ、礼だってんなら、するつもりもねぇがな。――その、生簀・・・・」
「さすがだね。関あじと関さばだよ。知り合いの料亭が空輸で手に入れたと聞いてね・・・・。一尾ずつ譲ってもらったんた」
「そりゃいいタイミングだったな。で、さばいてくれんのか?」
「もちろん。ああ、手塚も跡部も釣りが趣味だったっけ。包丁捌き負けられないな。手塚は自分でやりたいかもしれないけどここは譲れないよ」
「わかっている」
 生簀から引き揚げられた関あじを、河村は手慣れた様子て切り開いた。滅多にない高級魚であるが物怖じはない。テニスで試合で鍛えられた胆力はこいいう場でも有効なのだろう。綺麗に切り開かれた関あじが緩く握られたシャリの上に乗せられ青光りを放つ。つやつやと光る肌は視覚より味覚を誘う。
「――さすがに旨い、な」
「気にいったかい?良かった」
「ああ。やっぱり格段に違うよな。ほら手塚、テメェも食えよ」
「いや、今日は跡部の為の席だ」
「ばーか。俺様一人で食い切れっかよ。第一旨いモンはわけあって食うもんだろ。おら、口開けやがれ」
 微妙に命令系である為、手塚は困りつつも従った。今日は余程理不尽な事でない限り、跡部の言葉に添うつもりであるのだ。
「・・・・・・・・・・・・」
 指の関節程に開いた口の中、跡部の手が握り寿司を押し込む。
 全く他意などないのだろうが、跡部の白い指が一瞬だけ手塚の唇へと触れた。
 こんな不意の微かな接触にすら熱くなる体が滑稽でもある。を無表情の壁の下に衝動を押し隠しながら、ゆっくりと咀嚼する。素晴らしい風味が口内に広がるのは、舞い上がった心が味覚を操作もしているからなのかもしれない。ネタが上質のものであるのは間違いない事であるが、これ程までに美味かどうかは少々疑わしい所であるのだから。
 
「んなにお気に召したのかよ。にやけた面しやがって」
「え?にやけたって・・・・手塚が?」
「・・・・・・・・・」
 何処をどう見たらにやけているんだい?と、河村が心底不思議そうに問う。それに跡部は「見りゃわかんだろ」と、言い捨てるが、曖昧に笑う河村の表情からしてそれで納得できているようには見えない。
「跡部のインサイトは日常生活でも有効なのか」
「ア?わざわざ、んな所に集中力使っても疲れるだけだろ。ま、素でも俺様の洞察力は優れてんだよ」
 
 少し得意そうに河村と話す跡部の様子を横目で伺いながら、手塚は自分の頬と口を抑え、そんなに緩んでいるのだろうか?と少しばかり気恥ずかしく思うのだった。
 やはり、他者から見れば緩まぬ変わらぬ表情の裏側で。
 
 
 
 
 
 
 
 
 2006.04.28
 
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(番外編的 アニプリ映画設定)