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機微 |
「跡部。お前のインサイト(眼力)は本当に有効なのか?」
「―――――は?」
むっつりと眉間に皺を寄せられた手塚から放たれた言葉に跡部がぱちくりと瞬きする。正に藪から棒な気分であるのだろう。
「・・・・・・んだよ、突然」
これが手塚相手でなければ喧嘩を売られたと取らなくもない跡部である。
先程の言葉は取り様によっては「役に立たないのではないか?」と言っているようにも取れなくも無い。跡部に対してそのような無礼な口を聞く者は同校内には存在しないし、他校であるならそれを着火として舌戦(一方的な扱き下ろしとも言う)をも繰り広げる。
が、相手は手塚国光。生真面目過ぎる程に真面目な男だ。基本的に手塚は誰に対しても跡部のように挑発的な物言いをする事はない。意識しては、であるが。相手を煽るつもりなどなくとも、超然とした態度と、今ひとつデリカシーにかける男であるので無意識の内に喧嘩を売っている面はあるが。だがそれは、手塚にすれば「何故怒るのだろうか・・?」と常々疑問を抱く事である。
「お前はいつも他人に対して挑発的だ。本来なら、インサイトの能力を使えばもっと友好的に対応できるのではないか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
手塚の言葉に跡部の秀麗な顔が不機嫌そうな表情に歪められる。「てめぇに言われたかねぇ」という心情が有々とわかる表情であった。
「手塚、言うてはならん事を」
「ありゃ、跡部の機嫌思い切り損ねたな。糞っ、誰がとばっちり食うと思ってんだよ・・・・」
ほんの少し前まで、多少騒がしいながら友好的な雰囲気が流れていたというのに、それをぶち壊してくれた手塚に、氷帝メンバーの恨みがまし気な視線が向けられる。
「そうは言うけどね。手塚としても一度は訴えたかったんじゃなかな。ほら、跡部ってあの手塚を、怒らせるの得意だし」
「基本的に俺達の場合は、『グラウンド20周』となどの罰を与えられるぐらいで治められるからね。他校生である跡部にはそういうわけにもいかないし、手塚も鬱憤が溜まっていたようだ。普段そんなに気にしていないように見えていたんだけど・・・・手塚のデータは掴み辛いな」
身内の事故、一応手塚を擁護するような発言をする青学メンバー。ただし二人の間に分け入ろうとはしなかった。見物人に徹している。
「回りくどい言い方は好まねぇな。手塚よ、つまる所、何が言いてぇ?」
「・・・・・・・・よかろう。単刀直入に言わせて貰う。何故お前は俺の神経を逆撫でする事を言う?」
「は、ん。俺様に甘く優しく接して欲しいってか」
「そんな事は言っていないだろう!」
跡部の言葉に手塚はガンと拳をテーブルに叩きつけた。こんな風に激昂する手塚の姿というものは実に珍しい。いや、青春学園内においてはまず見られぬ姿であると言い切れるだろう。最も、ここに居合わせた青学・氷帝のテニス部メンバー陣に至っては、さほど珍しくない光景であるのだが。
「本当、跡部って手塚を怒らせるの上手いよね」
「あの言動をなぞらせて貰った事もあるが、うまくはいかなかった。跡部というファクターがあってこそ、か」
「つまりよ、手塚は跡部に対してだと沸点が低いって事か?」
「跡部も手塚に対しては他より含む所あるみたいやしな〜。普段はあそこまで挑発せんで?」
思わず声を荒げてしまった事を反省し、どうにか感情を抑えようとしている手塚に対し、跡部はあからさまにけっというような表情を向けている。当然の事ながらそんな跡部を前にした手塚が心楽しく感じる筈もなく、眼鏡の奥の瞳がひやりと冷えたように見える。二人以外のメンバーは、なるべくこちらに飛び火しないようにと、半ば呆れながら、半ば祈りながら動向を見つめていた。
「そりゃぁな、俺様にかかれば、インサイトなんざ使わなくてもてめーの感情の機微なんてわかるぜ?何を言やぁ気に入らないか、ぐらいはな」
「だったら何故そうしない」
「したくねぇからだ」
「・・・・・・・・・・・・」
あまりにあっさりと言い切った跡部に手塚も思わず絶句する。跡部は正直に言った。わざと怒らせているのだという事を。一体何故そんな真似を?と手塚が問いたくなるのも当然というものだろう。確かにテニスにおいてはライバル関係ではあるが、それ以外の日常の面ではそれなりに親しい関係であるとも思っているから尚更である。
「手塚ぁ、原因が思いもつかねぇって面だなぁ?言っとくが、俺だって最初からてめーに対してこうだったわけじゃねぇぜ?努力はした。忍耐力も行使した。だがよ、もう止めたんだ。てめーに関しちゃ、とっくの昔に売切完売御礼なんだよ!」
「随分こらえ性がないな」
「―――手塚ぁっ!俺はてめーのそういう所が気に入らねぇんだよっ!」
「待て跡部。何故そこで怒るんだ・・・・・」
「あーらら。本格的な喧嘩に入っちゃった」
「せやけどあれで、『嫌いなんか?』て聞くと、『・・・・・別に嫌いじゃねぇよ』て答えるんやで?」
「手塚の方もだね。『嫌っているわけなどない』と、悔しそうに言うんだ。何のかんのいって、何度喧嘩別れしようとよくつるんでいるみたいだしね」
「ったく、痴話喧嘩は他所でやれよな。檄・ダ・サ、だぜ」
有能なる青春学園テニス部部長と氷帝学園テニス部部長の仮面をかなぐり捨てて、子供の喧嘩としか見えない舌戦を繰り広げる二人を眺めつつ、他の面々はそこそこ友好的な時を過ごすのだった。
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