| |
犯した罪と 科された罰は |
それは罪であるのか。
一度痛い目にあっているというのに、学習していなかったか。
そして――――正に言葉通りの意味で痛い目に合った。
今まで肘の経過を見守って貰っていた医師も、他の意見を聞くべく訪れたスポーツ選手の治療において名を馳せる医院の医師も、揃えて首を振る。
無理をしてはいけない、と。根気良く治療を続ければ、光明は見えるかもしれないと。ここで無茶をすれば生涯後悔する事になると。望む答えは得られなかった。
最後の望みを賭けて渡った九州の地でも、返される答えは同じもので―――――
焦りを感じる。
上がらない肩に・・・・・・振り切れぬ腕に・・・・・・停滞する自分に焦る。
これが己の慢心に対する罰だというのなら、もしも神というものが存在するのならば随分と手厳しいものだと思う。他には何も求めず、ただテニスだけを追い求めてきた結果がこれだとは、随分な事ではないか。
リハビリを追え、抽選会へと望んだ。そこで、それほど長き時がたったというわけでもないのに懐かしく思う姿を見る。
彼等―――氷帝学園も全国大会に出場する事となった話は、仲間からのメールで聞き及んでいた。「手塚には複雑かもしれないけどね」と締めくくられる文面には、まだそんな風に見えるのか、と苦笑も沸く。複雑と言えば複雑なのかもしれない。もう一度―――――そんな願いをこんな形で果たせる事となったのだから。
しかし、希望はどうあれ、青春学園とすれば、勝利を望めるオーダーを組まねばならなかった。
顧問である竜崎に呼び出され、オーダー表を渡される。それに手塚が目を通す前の竜崎の視線が、探るようであったのが気になった。
「―――――これは・・・・」
「異論は許さないよ」
「・・・・・・・・・わかっています」
厳しい言葉に頷く。手塚は部長であるけれど、最終的な判断は顧問である竜崎が下す。そして手塚はこの大事な時期に戦線離脱を余儀なくされた。関東大会の厳しい戦いを勝ち抜いてきた仲間達と、共に戦える事を感謝こそすれ――――
「手塚が気に入らないだろうことはわかっていたけどね。だが、今うちで一番勢いのあるのが越前だ」
「・・・・・・・・はい」
「実力から言えば、手塚、お前さんの方がまだまだ上だ。だけどね、勝負の場においては・・・・何が起きるかわからない。その何かを起こすのがあの越前なんだ。お前も、あいつのそういう破天荒さを期待する面はあるだろう?『柱』を譲ったとも聞いたが?」
「・・・・・・・・まだ、譲ったわけでは、ありません」
「柱、ねぇ」
九州行きの前夜、突然手塚の家に跡部が現れた。いったい何処から話を聞いたのかと疑問を抱いたが、ニュースソースは教えられねぇな・・・・と軽く流される。まぁ、跡部程の男となれば、乾級の情報経路は持っていてもおかしくもない。
跡部の言葉の響きは、面白がっているでもなく、軽んじているでもなく、そして称賛するでもなく、けれども感心するでもなかった。それが、何とはなしな会話の流れで、越前は「青学の柱」となる奴だ、と言った手塚の言葉に対しての跡部の反応だ。
「何かおかしいか?」
「おかしくはねぇな」
「・・・・・・言葉通りに取れる口調とも思えないが」
「気のせいじゃねぇ?」
「―――――」
返す手塚の問いを軽く流した跡部は、それきりもう忘れたかのようにその先を続けようとはしなかった。ただ、別れ帰際にただ一度、「・・・・重くないのかね」と、微かにささやくような呟きを耳にした・・・・ような気がした。それが柱に対しての事か否か問うより前に、跡部の姿は消えてしまっていたのだが。
大和部長に託されたその言葉は、支えであり、目標であり、指針であった。
全国への参加を果たせなかった二年の夏。肘に残る名残に悩まされた苦悩の期間。無理をすれば取り返しがつかなくなると脅され、仕方なく治療に専念する事となった。高度な技術を持つライバル達と競い会う事ができぬのは残念だったが、Jr選抜の話も断った。その時、ちらりと跡部の顔が思い浮かんだが・・・・・・またいずれ機会もあるだろうと、未練めいたものは捨てた。第一、その時の状態で参加しても満足なプレーはできないであろうし、何より無様な真似を曝す事に手塚は慣れてはいなかった。
親しくもなければ近しくもなく、連絡を密に取る間柄でもなかった為、理由を話そうにもタイミングが掴めず、はたまた状況も許さないわけで、その年はそのまま跡部と会う機会もしばらくの間失われた。
冬が過ぎ春となり、最終学年となった折。最後のシーズンが訪れた。
3年間の間に努力と鍛錬をもって力と技術を積み重ねてきた仲間達。そして越前という新たなる風の参入が手塚に確信させる。
このメンバーでならば、必ず全国制覇も成し遂げる事ができるだろうと。だが、過去の遺恨はいまだ手塚の体を蝕んでおり、注意を傾けていた肘ではなく思わぬ場所―――肩への負担という形で現れた。
跡部の眼力によって見抜かれたのは壊れかけの肩。とどめは確かに跡部に刺されたのだろうが、遅かれ早かれその機会は訪れたのだろう。己を鍛えあげる行為が同時に己の身を滅ぼす事に気付かなかった手塚であるから、それは導かれるべくして導かれた結果でしかない。
足踏みする手塚を他所に、目を見張る程の成長を遂げていく越前に仲間達の信頼が増していく。精神的な支柱となっているのは自分ではなく越前だと思った。柱というものは受け継がれていくものと感じた手塚はそれを越前へと託した。
本当にそれだけだろうか。
越前を期待している。信頼している。
だが、本当にそれだけだろうか。
―――――重くないのかね―――――
つきりと胸の奥が痛む。
俺は・・・・・・・・ただ重しを払いたかったのだろうか。
そしてその結果・・・・今度は再戦の機会を奪われる。
いや、この先いつか再び合間見える事もあるだろう。手塚は今後もテニスを続けていくし、何れはプロをもと望んでいる。跡部もそうであろうと思っている。あれ程までに、心の底からテニスを楽しんでいる人物を、手塚は他に知らないのだから。
犯した罪は―――慢心なのか。
それでは咎は
課された罰は―――――
|
|