心に滲む
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 関東大会初戦後。次の試合までは一週間の猶予がもたれた。
 激闘の末に対氷帝戦を制した青春学園だったが、その代償は軽いものではなかった。主力の選手が軽症とは言い切れない怪我をした状態で、ベストなメンバーでは次に望めそうもない。それでも、選手層をそれなりに揃えているので、顧問である竜崎としても「何とかなるさ」と深刻には構えていない。何しろ、あの氷帝学園を打ち破ったのだ。正レギュラー・補欠、また試合に出るべくもない一般部員に至るまで、意気揚々といった所であった。
 
 自由な気質が特徴でもある青春学園であるので、試合が近いとはいえ練習に次ぐ練習漬けといったわけではない。緩急をつける事でより集中させる手法を竜崎は取っていた。あまり詰め込み過ぎて疲労を溜め込み、万全の体調で試合に望めぬなどは、本末転倒というものだ。
 その日の練習は顧問である竜崎が授業の関係上、部の方に殆ど顔出しもできないという状況もあって、少々早めに切り上げられた。そうとなると、大人しくさっさと帰ったりなどしないのが、健康な中学生男子というもの。手塚も含め、テニス部部員達は連れ立って街中へと繰り出した。
 
 
「あれ?氷帝の―――」
 
 その言葉に手塚が視線を巡らすと、周囲から一際浮いた集団が目に入った。
 仕立ての良さそうな白シャツとチェックのスラックスに胸元のエンブレム―――とくればこの界隈では『氷帝学園』の名がすぐに上がる。
 学術、芸術、スポーツとあらゆる面での才が際立つ名門校として、氷帝学園には賞賛の目が注がれていた。
 制服だけでも充分目を惹くのだが、それにプラスして彼等はよく目立つ。それぞれが際立った容姿であるのでひどく人目を惹いた。
 何か冗談でも言い合っているのか盛んに笑い声が上がっている。いや、笑い声に混じり何か言い合っているような声も聞こえてきた。諍いという程のものでもないのだろうが、髪型から判別するに口論を始めたのはどうやら宍戸と芥川のようだ。帽子を掴み床に叩きつける宍戸から、舌を出して芥川か身を躱す。その勢いのまま、中心にて我関せずの態であった跡部の腰元にがしりと抱き付いた。
 その行為が余計に宍戸を煽ったようで、跡部にまで文句を言っている。それをうざったそうに聞き逃す跡部だが、芥川を引き離そうとはしなかった。
 そんな騒ぎに閉口したのか、それともそれが常なのか、忍足が彼等の間に入り芥川を引き剥がそうとするが、そうすると今度は芥川がますます意固地にしがみついた。
 
「何か、仲良いっスね」
「氷帝は絶対の実力主義だと聞くし、仲間意識はどうなのかと思っていたけど、ああ見ると本当に仲が良いんだね」
「跡部がああいう性格だから、部長としてはともかく日常的には敬遠されると見ていたが・・・・どうやらデータを訂正した方が良さそうだ」
「乾〜今更氷帝のデータ集めても仕方ないと思うよん」
「いや、何が起きるか先の事なんてわからないよ。乾のデータ収集には今までも随分助けられたんだし」
「そうだね。今後、練習試合をする事もあるかもしれないし・・・・だけど、跡部がああいう風に中心となっているのもわからなくもないかな」
「不二、どういう意味だい?」
「――封建時代じゃないからね。200名もの部員が心酔する部長だよ。ただの俺様じゃないと思わない?」
「なるほど」
 不二の言にふむと頷いた乾は、何か思いついたかのようにノートに書きこんでいった。
 それをやれやれという感で見やった不二は、すぐ傍らに手塚に視線を向け、はっと瞳を見開く。
「―――手塚?」
「・・・・・・・何だ?」
「何って・・・・・・そんな怖い目をして彼等を見る事ないんじゃないかな?」
「―――怖い?」
「そりゃ、やっぱ部長は跡部さんに肩をやられた事でこだわりがあるからじゃないっスか?」
「何度も言ったが、その件に関して俺は跡部に遺恨を抱いてはいない。逆の立場ならば俺も同じ判断をしていたかもしれない」
「ねぇ手塚、君、自分の顔を鏡で見てみた方が良いんじゃないかな」
「鏡ならば毎朝見ているぞ」
「そうじゃなくてね。まるでさ、・・・・睨み殺すかと思うぐらいの、怖い目だよ」
「不二、からかうな」
「・・・・・・・まぁ、君はそう答えるだろうと思ったけど。・・・・あぁ、そうか。まるで―――――している、みたいだね」
「?」
「ゴメン、何でもないよ」
「・・・・・・・・・・・・・」
 微笑を浮かべる不二の表情は、手塚の無表情と等しく本音を覆い隠す。そしてそんな不二から答えを引き出す事は、手塚には敵わぬのだった。
 
 
 
 
 
 まるで―――――
 
 
 ―――何だというのだ?
 
 
 
 
 水面に石を投げ、波紋を投じたかの如く。不二の言葉はゆっくりと手塚の心に滲んでいった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 2006.03.10
 
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