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歪んだ結末 |
跡部という男は、時折突拍子もない行動を取る事がある。
感覚だけで生きているのでは・・・・?と思わざるを得ない瞬間を時に抱く。だが、瞬時に考えを改めるのが常だ。思いつきだけで行動したかのように見えて、結局の所は跡部はその裏で全てを計算しているのだろうから。
誕生日も程近く、身長・体重もさほど変わらず、置かれた立場は言うに及ばず、趣味の類すら共通しているときたら、それは相性が良過ぎるのだろうか。それとも、同じであるが故に同族嫌悪を抱くのだろうか。少なくとも手塚としては跡部にそういう意味での嫌悪を抱いた事はないが。
手法は違えど釣りを好み、系統は違えど書物を好む。この趣味の合い方は多分、気が合うといって良いのだろう。
基本的な読書傾向は微妙にずれるのだが、時に重なる事もある。部屋に招いて取り留めの無い話をしていた際に、学生鞄を蹴ってしまい中身がこぼれ出た。教科書数冊とノートの他に一冊の文庫本。その背表紙を見た瞬間、跡部の眉が寄せられた。
「どうした?」
「―――別に」
不審に思い、問うてみるが答えは曖昧のまま濁された。別にという態度ではないだろうと、ここで引かぬ態度を見せたら今度は跡部の方も折れてきた。
仕方ねぇなぁ、・・・という表情で、自分の鞄を軽く漁る。その中から取り出されたのは、手塚が所持していた本とそっくり似通った文庫の本だった。全くの同じではない。手塚の所持しているのは上巻で、跡部の手の中にあるのは下巻であったのだから。
数日かけて読み進めていたその本は、残る所あと10頁程という所だった。明日の帰りにでも本屋に寄って買ってこようか、とでも思っていた。その下巻が跡部の手の中にある。どうやらすでに読破終了しているようでもあった。
深く気に入った本は長く読む事もあるが、そこそこ面白いと感じたものから、クズに分類される範囲までは、適度に廃棄処分にしていた。そうしないと、部屋が書物に占領されてしまうからである。大抵の本は1回読みきれば満足するものであるし、何度も何度も繰り返し読もうとするお気に入りは、そう多くはない。
今回に至っては、一度読み終わったら処分しようと思える分類にある。だからといってつまらないというわけではない。下巻を読みたいという程度には、気になる話の展開であった。
「跡部はその本をどうするんだ?」
「ア?――読み終わっちまったしな。多分捨てる」
「ならばその前に貸して貰えないだろうか?捨てるのだったならば譲り受けるのでも良い」
「リサイクル使用かよ。・・・・・・・・・そー、だな」
「?」
何かを考えこんでいたかのような跡部だったが、ふいに何かを思いついたかのようにもてなしに出された紅茶のカップが置かれた台の方へと近づいていった。
軽くゆすぐようにカップを揺らし、悪戯っぽいわけでもなく、遊び心を見せるでもなく、跡部は手にしたカップを傾け、本を紅茶で浸すようにして水気を吸わせた。
タオルで表面だけを拭き取って、跡部は歪んで膨れ上がった本を手塚に手渡す。
「・・・・・・・これは、嫌がらせのつもりか?」
「いや?そのラスト、つまんなかったんだよな」
「・・・・・・・・・・」
どうでも無い事かのようにあっさり言い切った跡部に軽い頭痛を覚える。
そういう問題ではないだろうと、訴えるだけ無駄なのか。
紅茶の洗礼により、白い紙面は薄く色づき染まっている。綺麗に切り揃えられた外枠は、水を含んでふっくら膨れ、歪んだ態を見せている。
インクが滲み、一部―――特にラスト付近―――が到底読めぬような状況だった。
例えわかりきった結末だとしても
その後味がけして歓迎すべきものではないにしても
知りたいと思う。
読みたいと思う。
否定も肯定も、先を見てから判断するものだ。
しかしながらこんな歪み切った状態では、仕方が無い。
正せぬ歪みは・・・・結末すらも覆い隠すのだ。
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