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滴 |
色濃い湿気に誘われ、空を見上げる。
ポツ、と水の落ちる音とほぼ同時。
額を雨粒が、濡れ伝う。
「手塚っ!向こうにっ!!」
「―――ああ」
跡部の呼び掛けに導かれるままに走る。鼻先までが辛うじて逃げ込めるような短い軒下に、二人で駆けこんだ。ほっと一息つく間もなく、ざぁとバケツの底をぶちまけたかのような雨。腕を延ばした先すら見失ってしまいそうな勢いに、跡部と二人顔を見合わせ笑いあう。
笑うしかない。そんな状況だ。
そして、そんな気分だった。
「すげぇな」
「全くだ」
バシャバシャと雨の帳の向こう。時折誰かの足早に駆け抜ける足音が響く。
「思い切りいいな。どーする?習うか?」
「いや。少し様子を見よう。この視界では、走行車の判別すら難しい」
「ま、待ってりゃ小降りになるかも、しれねぇしな」
「ああ」
雨の勢いはいよいよ増す一方で、降り止む気配は見られない。ここで無理を通して風邪を引くのは愚かしい。また跡部をそんな羽目に会わせたくもない。
横目に覗き見る横顔に透明な水滴が伝う。僅かに水を吸った髪は常より僅かに色濃い茶色。白い頬に張り付いた髪を払おうと無意識に手を延ばしかけ、はっと我に返り拳を握る。
「手塚?」
どうしたよ?と見返す瞳は何よ り無垢であり、理由も知らず覚える罪悪感。
跡部の澄んだ蒼の瞳を避けるように視線を動かした先で、濡れた肩先が目に入った。
覆いの恩恵を受けぬそこは、ぴしゃぴしゃと垂れ落ちる水滴を受けて雨の滲みを広がせる。薄手の白いシャツの生地は、色素の薄い跡部の肌を薄っすら浮き上がらせた。
「―――濡れている」
「えっ?・・・・と、お、おい――」
引き寄せた反動で跡部の体が手塚の胸に飛び込むような形になった。瞬間的に防御体勢を取ったのか、鳩尾の辺りに拳が入る。その痛み呻くよりも、雨の匂いに混じった跡部の放つ香りに一瞬包まれた事にうろたえる心。
「すまない」
「こっちこそ、・・・・悪ぃ」
「引いたのは俺だ」
「鳩尾、いったろ?」
「いや、大丈夫だ」
「痩せ我慢すんなよ」
「本当に問題ない。それより跡部。濡れると、言っただろう?」
「―――ってよ、近過ぎじゃねぇ?」
離れかけた体を更に引き寄せると、跡部が困ったような、途方に暮れたような表情を浮かべる。反射的に突き放す事はなかったが、行動を決めかねている節があった。
「別に誰が見ているというわけでもない」
「そりゃ、そうだがよ」
「肩を冷やすわけにはいかないだろう」
「・・・・・・・・・・そーいうてめぇこそ、はみ出してんぜ?」
ちょいちょいと指差された先は己が肩。跡部の方に気をとられ過ぎていたようだ。迂闊なのか・・・・それとも、ただ無頓着な自分であるだけか。
「―――気付かなかった」
「ぷっ、何だよ、それ。・・・・・・おら、もうちょい寄れ」
「近過ぎと言っていなかったか?」
「うるせぇよ。てめーは喉元すぎりゃこれだから、放っておけねぇ」
「ありがたいな」
「あ?」
「放っておけないという事は、面倒を見てくれるという事なのだろう?」
「・・・・・・・・・・手塚。馬鹿だろ、お前」
「ああ、多分・・・・・・・・そうだな」
「って、認めやがるし」
「―――――」
可笑しげに声を立てて笑う跡部が、雲の合間から透かし見えた太陽の如く眩しかった。
ポチャン、と。
音が鳴る。
滴の、落ちる、音が鳴る。
ぽたり、ぽたりと・・・・・・静かなる水面に波紋を広げる。
濡れた肩とは対象的に、 ぴたりと寄せ合った肩から伝わる温もりが。
熱を孕むかのように
急く気が滑稽な程に
意識を・・・・・・・・惑わせる。
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