揺れ動く
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 鉄の精神等と言われるが、現実の所はそうではない。
 感情が表に出にくいというだけで、揺れ動く心に常に翻弄されている。
 
 冷静なる判断に添い果断即決に処していると思われがちだが、幾多もの可能性を取捨しての選択だ。
 恐らくは、跡部にならばこの気持ちは理解って貰えるだろう。
 
 感情面が豊かで態度と言葉に露にすると見られるようだが、それこそが跡部の手だ。狡猾なまでの計算高さが跡部の内にはある。相手の自滅を待つ戦法から見てみてもわかるように、跡部は己の手の内で相手を躍らせるのが得意なのだ。
 意地が悪い――と評した事があるのだが、「てめーの『手塚ゾーン』だって相当なもんだぜ?」と返され、なるほどと納得するしかなかった。性格の悪さはお互い様という事だ。
 
 
 
 続くラリーは長い。
 重く痺れる球。
 鋭いバウンド。
 腕へとかかる過大なる負荷。
 
 
 肘は、問題ない。
 足は、まだ動く。
 この程度で息が上がるようなお粗末な体力ではない。
 
 
 対峙してわかる・・・・跡部という男の恐ろしさ。
 確かに自分は避けていたのかもしれない。
 跡部との、決定的な対決を・・・・・・・・無意識の内に。
 
 優美に整った凄烈な美貌に浮かぶ、笑みを象った口元。
 ポイントこそ重ねているものの、追い詰められているのはこちらの方だ。
 
 破裂寸前の風船のような物だ。跡部の言葉が無くとも気づいただろう。いや、気づかざるを得ない。
 
 勝てるか。
 来るか。
 持つか。
 持たぬか。
 
 ――――崩れるか。
 
 
 
 破滅の肩とはよくぞ言ってくれたものだ。
 足元にぽっかりと開いた奈落への穴。
 
 
 何故続けるのか。
 続けるべきなのか。
 引かぬ事は正しい選択なのか。
 それは、仲間を信頼しきれぬという事ではないのか。
 
 答えの出ぬままに握り締めたラケットは、離せない。
 張り付き縫い付けられたかのように・・・・・ぴったりと。
 
 いつしか、跡部の表情も――――変化する。
 
 何かを訴えるかのように苦し気な
 怒りを発露できずに堪えるような
 哀しみを孕み抑え付けたかのような
 
 余裕の笑みが消え、焦りさえ、滲ませて。
 
 
 もしもネットを挟んでいなければ、力任せに掴み上げ、怒鳴り伏せるのではないだろうか。
 もしも跡部がこの立場であったならば、潔く降りる事を選択としただろうか。
 
 
 
 
 
 
 そして
 訪れるは・・・・
 
 決定的、瞬間
 
 
 
 
 ああ、やはり持たなかったか。
 襲い来る激痛の中で、最初からわかっていたかのように納得する。
 
 
 
 ここで引いても・・・・・・次には越前が控えている。
 あいつならば、負けはしない。必ず、勝ちを掴み取るだろう。
 
 ならば・・・・・・自分はここで引くべきではないか?
 無様なまでにしがみ付く必要などないのではないか?
 
 
 もう止めろと皆が言う。
 戻ってはいけないと、皆が言う。
 
 お前は充分によくやったと。
 後は任せろと。
 これ以上やる必要などはないのだと。
 
 
 
 傾ぐ。
 自分はただ子供の意地を張っていたのかと、揺らぐ。
 
 そして。
 ここまでと・・・・・・開きかけた、口が――――――
 
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 
 
 
 
 コートの上に立つ跡部が見える。
 こちらを睨むようにして一人立つ、帝王の姿が・・・・・・・・見えた。
 
 
 
 何だ。
 答えはそこにあるじゃないか。
 跡部があそこで待っている。
 ならば自分は。
 
 戻らなければならない。
 
 何をおいても引けぬ勝負があると
 何を犠牲にしても下がれぬ試合があると
 
 気づけば迷いはすでにない。
 
 
 
 
 さあ。
 始めよう。
 
 ―――――跡部。
 
 
 
 待たせて、すまなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 2006.03.07
 
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