歯車
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 跡部のような存在は他に代わり得ないな・・・・との聞かせる為でもなかった呟きに、ゆるりと振り向いた跡部の表情があまりに静かで息を飲んだ。
 
 
 氷帝学園の跡部景吾と言えば、その実力もさるものながら、少々―――言葉にし難い人物として広く知られている。
 氷帝学園の名は、跡部と共に並ぶといっても過言ではない。例えば手塚の場合も、テニスに関わる場合は一部によく知られているようだが、青春学園自体は全国にその名を轟かすという程ではないし、ましてやその一部長、一生徒会長の名とてそれに習う。
 しかしながら、氷帝学園は、近隣にその名の知れた名門校だ。特に富裕な家庭の子息が集まるという事もあって、学内の設備も近代的で金がかかっている。学業においても偏差値の高さで知られているし、海外との交流も深い。その名高い氷帝学園の名を、更に高めているのが跡部という存在だ。
 一目見れば忘れる事のできぬような凄烈で印象的な容姿と、有名企業の名など殆ど知らぬ者とて跡部グループ、跡部財閥の名は、小耳に挟んだ事がある、またその名を目にした事があるだろう。
 全てに恵まれたイイトコのボンボン・・・・と跡部を侮る者は、その身をもって後悔させられる。眉目秀麗、容姿端麗、成績優秀、品行方正・・・・と並べてしまえばキリが無い。まぁ、性格の強烈さと言葉遣いの悪さで充分お釣りが来ると言う者も少なくないが。だが、そんな柄の悪さも表に出すのは結局跡部が計算しての事なのだ。公の場での跡部を一度でも見た者は、これが自分達の知る跡部だとは、己が目で見たとても、すぐには信じきれぬ事だろう。
 加えて、200名の部員を指先一つで自由に采配する絶対的なカリスマ性。それらはテニスに限らない。氷帝学園という学園そのものすらも、跡部に心酔しているのは紛れも無い事実だ。
 
 
 
 
「――代わり、ね。んなもんは、幾らでも居るもんだぜ?」
「跡部にしては珍しい謙遜ではないか?」
「謙遜でも何でもねぇさ。事実を事実として述べているだけだ。例えば――」
「例えば?」
「青春学園中等部、テニス部部長、手塚国光。部員達には信奉され、下級生にも慕われ、監督の信頼も深く、他校のテニスプレイヤーからは羨望と闘争心をを買う存在――」
「跡部に褒められるというのもこそばゆいな」
「素直に褒め言葉を受け取っとけよ。―――だが、そんな『手塚部長』が居なくなったとしても、青学のテニス部はそれなりにやっていけるだろうな」
「・・・・・・今、話をしていたのは跡部の事だったと思うが」
「同じ事だ。てめーが居なくても、部は廻る。俺様が居なくても、部は廻る。それだけだ。そんな、ものだ」
「俺はともかく・・・・お前は、あれ程慕われているではないか」
「―――所詮はパーツなんだよ」
「・・・・跡部?」
「最良の部品、最高の歯車って奴だ。―――欠ければ代用品を用いるだけだ。最良でなくとも・・・・最高でなくとも・・・・最適でなくとも、な」
「・・・・・・・・・・・・」
 
 そう言い切ると、跡部は笑った。酷く透明な、微笑みで。
 
 
 
 
 そんな会話があった事を、手塚は思い出していた。
 遠く離れた――――九州の地にて。
 関東大会で壊した肩の治療の為に訪れたこの地にて、手塚は例えようも無い焦燥感に狩られていた。
 間に合うのか。
 間に合わせられるのか。
 上がらぬ肩に、苛立つ日々。
 そんな手塚に仲間達から届くのは、勝ち抜いているとの報告だった。早く帰ってこいと、待っているとの言葉で常に締めくくられる。
 
 
 代わりは、居る。
 青学の柱。
 青春学園の名を背負う者。
 
 
 自分は何の為にこだわり続けたのか――――時に、見失う。
 
 
 
 
 
 
 
 
 2006.03.06
 
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