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昔語り |
「――――ぷっ」
「・・・・・・・・・・・・」
腹を抱えてソファの上で転げ回る友人に、何を言えば良いというのか。しかも、その手にあるのが自分の幼い頃のアルバムだとすれば・・・・更に。
自発的に見せたわけではない。当然の事だ。幼少時の写真など、多感な青少年的観点からいけば忘れてしまいたような恥部でしかない。が、力ずくで取り上げる事も適わない。何故なら、跡部にそのアルバムを渡したのが、手塚の母であるからだ。
そういえば、と思い出す。週末に跡部が遊びに来ると伝えた時の母の様子は、何故だか警戒心を抱かせるもので・・・・そして昨晩何やらゴソゴソと探していた光景を思い出す。まさかこんな物を掘り出していたと先に知っていたらならば、対処のしようもあったというものなのだが・・・・・・・いや。あの母相手に逆らう事などそもそも無理であるのだろうか。
祖父に呼ばれて跡部に「すぐ戻る」と伝えて母に後を任せたのがそもそもの間違いだった。母と跡部は気が合うのか、年の離れた友人のように仲が良い。いや、手塚家において跡部の心証は何故か良く、祖父にしても父にしても、普段の食事の際にすら「そういえば、跡部君はどうしている?」などと手塚に聞いてきたりする。
全く・・・・敵は本能寺にあり、ではなく自家にこそあったようだ。戻ってきてすぐに、和気藹々といった風で母と跡部が何を覗き込んでいるか把握した手塚は、「そんなもの、見ても面白くないだろう」と、跡部の手からアルバムを取ろうとしたのだが、「はっ、面白いに決まってんだろ!」と、正に零れる笑みを隠せないと・・・・しか表現できない表情で笑う跡部との間でちょっとした攻防があったのだが・・・・いかんせんテニスにおいては全国クラスの身体能力的を持つ跡部である。拮抗した相手との対決において、勝負はそう簡単にはつかない。そして、審判役が明らかに跡部の味方をするとなれば、緩んだガットで強敵に向かっていくようなものだ。
「お前も、ガキの頃は可愛いじゃねぇのよ」
などと言われてどう喜べというのか。跡部の手元で開いた頁には、小学校においてやらされた劇における仮装の写真。子供であるという面を差し置いても、演技力においては壊滅的に才能が無かった手塚に割り当てられたのは、森の木Aという役柄だった。立っているだけなので楽だといえば楽ではあったが・・・・その姿をしっかり写真に撮って残してくれた母に対しては、少しばかりの恨み言を言いたい。
「でもね、国光ったら、どの写真も一緒なのよね。服装と風景だけ切り離したら、コピーしたみたいに一緒。どの写真でもむっつりしてて、笑ってくれなかったのよね・・・・」
「苦労したんでしょうね」
「ええ。お父さんも何度も笑わせようと頑張ったのだけど・・・・結果はこの通りよ」
「・・・・・・・・・・・」
ぱらぱらと、めくる先々に飾られた手塚の写真は、どれもこれも仏頂面で、笑顔の一つも存在しなかった。いや、手塚とて笑った事が無いわけではないのだが――カメラのレンズを向けられると、どうしても表情が強張り、レンズを睨みつけるようになってしまう。相性というものが悪いのだろう。
「まぁ、国光君らしいですよ。これで、天真爛漫に笑み崩れた国光君の写真などが飾られていたら・・・・・・・・しばらく夢で魘されそうです」
「あらひどい」
「はは。だけど、全部一緒というわけでもないんじゃないですか?ほら、これなんか少し表情緩んでますよ」
「本当ね。ああ、思い出したわ。これは、国光の意識を他に逸らしておいて、不意打ちで撮った写真なの。全く国光は中々隙が無いから・・・・」
「油断せずに行こうって?」
「・・・・・・・・・・・別にそういうつもりはない」
からかう気に満ち満ちた跡部の青い瞳を前に、手塚は常より深い皺を眉間に立てる。だが、そんな不機嫌面も、この二人に対しては全く効果が無い事もまた悲しい事実であった。
「うふふ。懐かしいわね。国光もこの頃はもう少し、素直だったのよ?」
「今でも素直ですよ。―――ある面においては」
「あら。そんな風に言ってくれるの、跡部君くらいだわ。国光はどうもお堅く育ち過ぎたから・・・・跡部君のアルバムだったら、きっと笑顔で溢れているのよね?」
「―――――――――――少なくとも、国光君のよりは」
「・・・・・・・・・・・・」
母の言葉に答えるまでに、僅かに間があったような気がする。跡部の浮かべた表情は優し気で、寛いだものであるのだが・・・・・・感じた違和感は勘違いなのだろうか。
「見てみたわ。跡部君の小さな頃なんて、天使のように可愛らしいのではないかしら」
「そんな事はありませんよ。何処にでも居るような・・・・悪ガキです。今度、お見せしましょうか」
「本当?楽しみだわ」
「がっかりされてしまうかもしれませんよ?」
「そんな事ないわよ」
くすくす笑い合う母と跡部の姿は、ごくごく平和な光景で、微笑ましくすらある。跡部の幼い頃の写真―――手塚もまた、見てみたいと思う。
本当に宗教画の天使の如く、稚い姿が写されているのではないだろうか。そうしてその際には、意趣返しとして手塚も笑ってやろうか・・・・などと沸き上がってくるのは小さな報復案。今晩からでも笑う練習をしておいた方が良いかもしれない・・・・などと、密かに計画する手塚なのだった。
無数に散りばめた写真の中で、幼き姿が遠き過去を語りかける。
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