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囁く声 |
耳に残る言葉というものは、本心を言い当てられたが故の動揺からなのだろうか。
近来に無く降り積もった雪は、辺り一面を銀世界とした。耳が痛くなる程の寒気も、緑も土も建物すらも覆いつくした雪の世界は、大層綺麗なものであったけれど。
グラウンドすらも一面を雪に覆われ、運動系の部員達は校門前から人が通る範囲に渡り一斉に雪掻きへと借り出された。教員達は生徒がさぼらぬように、また雪で足を滑らして怪我などしないように監督役として脇に控えている。肩にかかる、腕にかかる、常とは異なる負荷と寒さに文句を言う者も多かったが、「トレーニングだと思え」の一言には黙って従う他はない。
ザクと雪を掘り起こし、脇へと寄せる。通路とする分を全て積み上げるとかなりな量となるので、避けた雪の一部はネコと呼ばれる工事器具をもって裏山の方へと捨てにいった。
腕に重みを感じ、小休止とばかりに息を吐く。視線を斜めに逸らすと、未だ手をつけられないテニスコートの雪が目に入った。部の分担となるそこは、あとで部員達を借り出して雪を掻きださねばならない。
「誰も踏み入れてない綺麗な場所って、一番に踏み荒らしたくなる」
「・・・・・・・・・・不二」
振向くと、穏やかに笑む不二の顔があった。にっこりと微笑みを浮かべる視線の先には真白なコート。
「子供じみた事を言うんだな」
「ああいう所ってさ、そのまま箱に詰めて残しておきたいような気持ちもあるんだけど・・・・跡形もなくぐしゃぐしゃに踏み潰したい気も湧き上がるんだよね」
「コート上を荒らされるのは困るな」
「そうだね。荒れたコートじゃいい打球が打てない」
「・・・・・・・・・・・」
当然の如く紡がれる言葉の裏に真意はどうあるのか。不二という捉えどころの無い人物に対し、手塚はうまく反応しきれぬ事が多々ある。だが、不二の方はといえば、訳知り顔で、手塚の困惑顔を見ても気にした風もなく、むしろ満足そうと感じられるのだった。
「綺麗な物を穢したい。完璧な物を壊したい。―――手塚にはそんな欲求は、ない?」
「・・・・・・よく、わからないな」
「ふぅん」
「・・・・・・・・・・・・・」
それ以上の追求をする事もなく、離れていった不二の顔には、やはり変わらず穏やかな笑みのようなものが浮かんでいた。時折、思う。アルカイックスマイルというものは、あのような表情の事を言うのではないかと。
「手塚っ!」
「・・・・・・すまない。遅くなった」
ぱっと、花綻ぶかのような笑みを前に、戸惑いを抱きつつ、けれども外見上は常と変わらぬ無表情のままで壁際に立つ跡部の方へと歩み寄った。
「んなに、待っちゃいねーよ。今日、部の方があったのか?そっちも雪塗れだろ?」
「ああ。トレーニングをする場も確保できないので、コートの整備をしようとしたんだが・・・・また降りだしてきたので二度手間となるから取りやめにした。それに半数が風邪にやられていrたからな」
「風邪かよ。管理がなっちゃいねーな」
「全くだ」
「しかし、雪掻き自分達でやんのか?はっ!青学でなくて良かったぜ」
「氷帝では違うのか?」
「業者に頼んでいる」
「―――そうか」
当然の如く言い切る跡部に内心嘆息する。学園の富裕レベルの違いというものは、こういう所に顕著に現れてくるものだ。
はぁと、悴んだのか、手に息を吹きかける跡部の白い顔を横目で見る。襟元に巻いた青いマフラーと、赤く染まったような耳元との対比が目に眩しい。言葉通りではない。随分と、待たせてしまったようだ。
美術品のような造形美の優美な顔立ち。白銀の世界にも勝るとも劣らない、白皙の顔。
『―――壊したい。・・・・・・そんな欲求は、ない?』
キィンと、甲高い音が、耳に届く。
「――――手塚?」
「・・・・・・いや、少し・・・・耳鳴りが」
「大丈夫かよ」
「ああ、問題ない」
「風邪引いたんじゃねぇ?大体お前、薄着すぎだろ。この時期ありえねえ」
薄手のコートすら着こんでいない、学ランのみの手塚の姿を見て跡部が寒そうにぶるりと震える。「見ている方が寒くて仕方ねぇ」と、跡部は自分の首に巻いたマフラーを外し、手塚の首に無理矢理巻いた。
柔らかで質の良い生地から、ふわと柔らかな香りと温もりが伝わる。「跡部の方が風邪を引いてしまう」と固辞しようとした手塚に、跡部はぶっきらぼうな口調で「ばーか。この程度、寒かねーよ。それより、しっかり巻いとけ。風邪っぴきで彩菜さんに面倒かけんじゃねえぜ?」と言い切り前を向いた跡部の表情はわからないけれど・・・・先程よりも朱に染まった耳だけは見えた。
この・・・・清冽で綺麗な輝ける存在を―――――
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