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反射 |
一つ間違えば青春学園という枠そのものすら巻き込んでしまったかもしれない上級生との確執も表面的には沈静化し、親しくしていた者数名が部内で頭角を表しつつある一頃。鍛錬に心血を注ぎ一応は心穏やかな日々を過ごしていた手塚の耳に届いてきた噂があった。
氷帝の、跡部。
手塚と同じ一年ながら秋の国体では団体戦のメンバーの一人であるという。同年とはいえ著しい成長が見られる頃合。それは、発育速度の違いでしかないのだけれど。
同世代の中には一年の間に20センチも伸びる者すら居る。いまだ女子とさほど変わらぬ体格の手塚としては羨ましい限りだ。恐らくその跡部という奴は上級生と渡りあえるぐらいの体格なのだろう。一年後にはその名も聞かなくなるかもしれない。そんな事を考えながら氷帝学園の試合が行われているコートへと向かった。
驚いた事にフェンスの向こうに立つ彼は、手塚よりもなお細く小さい。
華奢な、それこそ女子の制服でも似合いそうな体格に、恐ろしいまでに整いきった小作りの顔。これはどこまで噂が先行したのかと誰もが思った事だろう。
氷帝の選手層は厚い。金持ちの通う学園としても名高いので何らかの作為が働いたのだろうと手塚ですら思った。
マネージャーでもこなしている方が似合いな・・・・誰もが見惚れそうな可憐とも言える容貌に浮かぶは、不思議と人目を惹きつける高慢な表情で、遠目にすら判別できる不思議な色合いの瞳が放つ眼光は鋭く、彼が可愛いだけのお飾り人形ではないと知れる。
コートに降り立った彼の姿にからかうような野次が飛ぶ。その中には随分と品なきものもあり、手塚は不快になった。
チームメイトが駆け寄り慰めるかと思えば氷帝ベンチは誰一人として動かない。彼を見つめる目には絶対の信頼があった。胸に焼けるような高揚感が沸いた。
この試合を見逃してはならないとの強い思い。隅の方で見物しようとしていた為にコートは遠く視界が悪い。小柄な体を生かし、ちょこちょこと人の間をすり抜けてしっかりと試合を未届ける事のできるポジションを確保した。
跡部が緩慢にも見える動作でゆっくりとラケットを掲げる。それだけの動きで、騒がしい程であった野次が止まる。
悠然と構えた跡部は、ラケットの先を対戦相手のチームへと向けた。まるでこれから平伏させてやると言わんばかりの自信に満ちた王者の笑み。氷帝ベンチはそれを当然の事として眺め、対戦相手はいきり立った。
やる気だけは充分であったのだろうが・・・・試合展開といえば一方的なもので。どこにそんな力を秘めているのかと見る目を疑うような強烈なスマッシュ。着実で隙無き力強いストローク。
見る間に崩れていく対戦相手を冷ややかに見据えながら、跡部は容赦なくポイントを重ねていき、信じられぬかのような・・・・何が起きたのか試合終了のコールが鳴っても未だ理解できぬままの相手をコートに残したまま、自軍のベンチへと向かった。
迎えるは盛大なる歓声。その時手塚は周囲に居るのが他校の生徒ばかり――その殆どが涼やかな色合いの水色のラインが入った氷帝学園のジャージを着こんでいる事に気づく。なるほど、大所帯という氷帝学園テニス部の名は伊達ではないらしい、と奇妙な面で納得する手塚であった。
跡部を囲む氷帝ベンチ陣は、胴上げすらやりかねないような雰囲気で盛り上がっている。しまいには、「――早く次の選手はコートに入りなさい!不戦敗になりたいのかっ!」と審判陣に叱られる始末。慌てて一人の選手がラケットを掴み飛び出すのが見えた。
その姿が集団から抜け出す寸前、白い手が伸びる。あの跡部の手が、次の試合の選手らしき者の腕を掴んでいた。
最初は不思議そうな顔で見返していたその氷帝の選手は、次いで太陽のようなという表現が正にぴったりと嵌るような表情で破顔した。そして、その無骨な手で遠慮なく跡部の頭をかき回し、むっとした表情の跡部に大笑いをし、コートへと向かった。かき乱されてぐしゃぐしゃになった頭を憮然とした表情で直しながら、跡部の雰囲気は寧ろ柔らかで。その視線に攻撃的な色は無く、コートに向ける視線は信頼に満ちたもので。
違う世界がそこにはあった。信頼と友愛に満ちた関係がそこにはあった。
氷帝学園のテニス部は、他に類ない程の人数を抱えているが故にレギュラーの座を射止めるのも簡単な事ではないと聞く。青春学園のランキング戦のように、仲間であっても凌ぎを削るライバルだ。レギュラーとそうでないものとの間には、妬みや謗りといったものが暗い温床にて育てられている筈である。
だが―――――
眩しい程の一体感が氷帝学園にあるのがわかる。そしてその中心にあの跡部が居るという事も。
空を見上げると、照りつける太陽があった。
下を見下ろすと、太陽光を受けて反射したかのように金茶の髪に光を孕ませ輝く跡部景吾の姿。
酷く、眩しい。
瞼を伏せればその奥に、じわりと滲む黒き点滅。
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