■ morning battle
 
 
 
 
 朝の目覚めは爽やかである。
 空気も清清しく、しっかり寝入った若い体は疲労を吹き飛ばし軽快だ。
 そんな中、何とも言えない空気を生んでくれた存在があった。
 青春学園テニス部と氷帝学園テニス部の部長様御二名様である。
 
 
「‥‥‥どう思う、これ?」
「人知れず温めてきた恋心がうっかりどっきりときめき合宿によって爆発したとか」
「―――乾、面白くないよ、その冗談。それとも手塚をリサーチしてきた中でそういう傾向があったの?」
「いやない」
「・・・・・・・・・・・・」
 きっぱり言い切る乾の言葉にさすがの不二も押し黙る。笑みを浮かべたまま。しかしながらその目は細く眇められ笑顔であるのに笑っていない。
「順当に考えるなら跡部が間違えたんやろな―」
「それで何でこんな風になるんだよ。檄ダサ」
「いや。跡部の寝所は向こうやろ?で、夜中に小用で起きたんちゃうんか?そのまま方向間違って手塚の隣に入ってしもうた、と」
「さすがは忍足さん、跡部さんの行動パターンをよく理解していらっしゃいますね」
「ウス」
「ちゅうか、この状態からそれ以外思い浮かばんで?手塚の隣は菊丸やったんやろ?――今は遥か遠くに居るけど」
「英ニ先輩は寝相もアクロバッティクみたいっスね」
 と、ここで話題の主の元に視線が向く。その菊丸英ニはといえば、本来寝入った筈の場所から遥か遠くに遠征中。 壁から壁までどこをとう転がっていったのやら、そこから先が無くて幸いであったのか反対側の壁際にて毛布を抱えこんで未だ熟睡中である。
 そして本来の二人に戻る。
 この二人。手塚は見るからにであるが跡部も結構生真面目な質だ。ついでに崩れる様を見せる事を良しとしないので乱れた寝相というのは確かに想像できなかったが。
 手塚と跡部。二人は静かに寝息すら聞こえぬ程に寝入っている。身動きもしない。上と下が反対になっている事もない。 パジャマのシャツのボタンがばらばら外れて腹を出しているような事もない。
 寝相は大変良い。大変よろしいのだが―――
 何故に二人はぴたりと寄り添い、あまつさえ跡部が手塚に抱きつくような様でひとつの布団で寝入っているのだろうか‥‥?
 
「――まぁ、昨晩は少し冷えこんだし?」
「跡部寒がりやし――。温もりに寄っていったんとちゃう?俺やったら大歓迎なのにな―」
「君の下心はさておいて、この二人、どうする?」
「起こさないんスか?」
「まだ朝食の時間までは大分間があるだろう?自主的に朝練をしている奴も居るけど、眠りたい奴はもう少し寝させてあげてもいい時間なんだよね」
 柔らかに言う大石の言葉はあくまで親切心からである。が、その彼と等しく見物に甘んじている以下数名の心境はといえば同じである筈がない。
「――もう少し、放っておくのもいいかな〜とは、思うよね」
「跡部寝起き悪いし、無理に起こすとご機嫌斜めやわ」
「ああ。朝から当たり散らされるのは避けたいね〜。美人は怒った顔も美人だけどさ」
「寝入った顔は割増強烈美人さんやろ?保護欲誘うねん」
「君の場合は悪戯心じゃないのかい?」
「俺、そない人悪うないで?」
「自分の事は存外わからないものだね」
「不二もよぉ言うなぁ〜ははははは」
「あはははははははは」
「「「「‥‥‥‥寒い」」」」
 青学と氷帝の自称・他称天才二人の和やかかつ寒々しい会話に思わず己の肩を抱く部員達。彼らの間には突発的ブリザードが発生していた。
「で、結局どうするんスか?」
 そんな恐怖空間をものともしないのが、生意気盛りの期待のルーキー越前リョーマである。
「どうって、・・・・静観?」
「様子見、やな」
「―――ふーん」
 あからさまにこんな面白い事見物しないわけないだろ?と人の悪い笑みを浮かべる先輩と、それに類した表情でやはりにやにや笑う関西系の二人を眺め、リョーマは「ま、いいけど」と肩を竦めるのだった。
 
 
 
 
「・・‥・・んっ」
「――――」
「・・・・あ〜‥朝、かよ。・・・・たりぃ」
「起きたか」
「ああ?手塚?てめぇが何故ここに‥‥」
 ぼーっとしたままゆっくりと覚醒しつつあった跡部は聞こえてくる筈の無い声にぎょっとする。おかげで意識ははっきりしたようだ。
「目が覚めたのならば離してくれないか。身動きができない」
「んだと?――――あぁぁっ?!」
「温かいには温かいのだが、そろそろ起きた方が良い」
「って、テメ!この状況で何でんな落ち着いてんだよっ!」
「目が覚めたらこの状態だった。それだけだが何か慌てる所があるのか?」
「慌てもすんだろうがっ!んで俺様がテメェなんかに抱きついて‥‥あ?テメェに抱きつく‥・・?」
「そうだ。跡部、お前が俺に抱きついているのだ。離してくれるか?」
「―――――っ」
「顔が赤いぞ」
「るせぇっ!」
 指摘されて跡部の顔がますます赤くなる。別に誰とひっつこうと抱きつこうと照れるような跡部ではない。が、相手が悪い。あの手塚だ。 しかも自らが抱きついていたとあっては、自尊心の高い跡部が羞恥心を感じぬ方がおかしかった。
「俺は昨晩から一度も此処を離れていない。寄ってきたのはお前の方だ」
「わかってら!俺が寝惚けたんだよ!クソ」
「――まぁ俺だから問題は無かったが・・・・跡部はもう少し気をつけた方が良いと思うぞ」
「ああ?テメ、何言ってやがんだ?」
「気をつけろと言っている」
「だから何をだよ。・・‥あ〜朝から疲れまくったぜ。熱い珈琲でも飲みてぇな」
「朝は味噌汁が一番だろう」
「てめぇの爺臭ぇ趣味と一緒にすんな。俺様は洋食派なんだよ。生活習慣の違いなんだから、そこまで押し付けんなよ?」
「そうか」
「・・・・・・・・・」
 あっさり頷く手塚に跡部は拍子が抜けたようだ。先程までの興奮も引いて、力が抜けたように座りこんでいる。
「他の連中は‥・・んだよ、まだ起きてねぇのかよ」
「そろそろ起きだすだろう。それほど寝汚い奴はいない」
「そーかよ。うちはあれだな。ジローが居るからな。・・・・仕方ねぇ、起こすか。合宿でまでぐーすか寝られては示しがつかねぇし。 特別製のを一発かましてやれば幾らあいつでも目が覚めんだろ」
「特別製、とは?」
「ん?興味あんのか?」
「基本的には皆寝起きは良い方だが、中には中々起きない奴も居る。参考になるものなら」
「ふーん」
 生真面目な手塚の台詞に跡部がにやっと笑う。悪戯を思いついた子悪魔の表情だ。
「だったらてめぇにも伝授してやろうか?」
「跡、部?――――?!」
 すいと襟元を引っ張られ、反応しきれぬままに手塚の唇が柔らかな感触を感じ取った。驚愕に見開かれた手塚の目は跡部の顔をまじまじと注視する。 触れたままの唇よりも、そこからからかうように伸びた舌がちらりと手塚の上唇を舐めた事よりも、あまりに間近で見た跡部の端整な顔に引き込まれるように魅入っていた。
(アップに耐えられる造形というのはこういうものなのだな・・・・)
 日頃から綺麗だとは密かに思っていたが、こう至近距離で見るとますます美麗である事がわかった。伏せられた目元を飾る泣き黒子がいやに印象的で、額にかかる柔らかな茶色の髪がくすぐったく、ほのかに匂う跡部の香りに戸惑いを感じる。
 受け応える事も突き放す事もできぬままにされるがままの手塚には、その時間が無限にも長く感じられた。実際の所はほんの数秒であったのだろうが。
「――くっ・・・・何て面してんだよ。ま、ジローの奴はこの程度じゃ起きねぇけどな。濃厚な奴やってやれば、苦しくてさすがに飛び起きんだよ」
「そ、そんな事をするのか?」
「叩いても引っ張って蹴飛ばしても起きねぇんだから仕方ねぇだろ」
「そうか。いやだがそれにしてもそこまでやることは・・・・俺にはできないな」
「はぁ?当たり前だろ?俺なら冗談で済むが、てめぇの場合は全く冗談で済まされねぇだろーがっ」
「・・・・・・・・跡部にはこれが冗談で済ませられるという事か」
「あぁ?何だ?手塚、お前何怒ってんの?」
「別に」
「別にって面じゃねぇだろうが」
「何でもないと言っている。俺は顔を洗う」
「――そーかよ」
 むっとした表情のままに、少しばかり常より荒い足取りで行ってしまった手塚の背に「何だぁ、あいつ?」と跡部は不可思議な視線を向けた。
 自分が原因なのだろうが、何故手塚がああも怒りだしたのか思いもつかない。 いやいつもは喧嘩を売っている自覚はあるが、今回はそれほどではなかったはずだからますますわからないのだ。
「・・・・・わけわかんねぇ」
 けっと舌打ちをつき、布団を蹴り上げると跡部はもうさっきの顛末の事は忘れる事とした。 どうせ手塚の事だから朝食の席ともなればいつものペースを取り戻しているだろうから、と思ったのも理由のひとつだ。
 
 
 
「何ていうか。君達の部長。‥‥‥‥鈍い?」
「そら、そちらサンもやろ?」
「うちのは国宝級の天然さんだから」
「うちかて世界遺産なみの天然やで?」
「それじゃぁ仕方が無いかなぁ」
「せやな〜仕方ないとちゃうん?」
「でも、この調子であのままいかれると、俺達合宿中ずっと天然馬鹿っぷるに充てられる事になるよね」
「鬱陶しいで〜ホンマ」
「だったらさっさとくっつけちゃわない?」
「悪化するんやないか?」
「ちっちっち。甘いね。忍足。自覚さえすれば、手塚の方はともかく跡部の方は恥ずかしがるだろ?」
「あ、そらあるなー。そーいう所が可愛いねん、景ちゃんは」
「で、いいの?」
「ん?」
「手塚で」
「跡部の相手できんの、手塚くらいやろ。そっちは?」
「こっちも同じく。手塚の相手なんて跡部くらいでしょ。ま、それに跡部、可愛いしね」
「お手ヤワラカ〜に」
「そっちもね」
 
 こうして、ひっそりと部長二人の様子を見守(見物)っていた青学の天才と氷帝の天才の二つの手は、がしりと組みかわされたのだった。
 
 
 
 
[ date: 2005/09/25 ]
 
青学・氷帝合宿捏造編。‥‥続く、のか?取り合えず、初ちう(笑)
ちなみにこの時点で跡部に恋愛感情は皆無。される分には拒否反応示しますが自らする分には(ディープでも)全く気にしない。(←しろや) 夏の糞暑い時にひっつかれると怒髪天ものだけど自分からはひっついて相手が嫌がると楽しいってアレです。(←いやそれはどうかと) まぁジローは嫌がらないのですが。