A HAPPY NEW YEAR !!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ぴんぽーん。
 軽やかなチャイムにパタパタと走り出す母の足音が聞こえる。
 新年早々の来客だ。手塚はコートとマフラーを片手に、ゆっくりと階下へと降りた。
 
 
 
 
 
「明けましておめでとう、跡部」
Happy new year、だろ?」
 
 
 母の背越しに声をかけると、くくと笑って跡部が返してきた。
 跡部の口から放たれる英語は発音がとても綺麗だ。英国の血を引いているという事で、向こうで過ごした期間も長いと聞く。本場仕込みのクィーンズイングリッシュ。それは耳にする者に音楽的な響きとすら感じさせた。
 すらりとした長身を包むのは白い柔らかな羽毛仕立てのコートで、跡部の白い肌に映えている。フェイクという事だが、跡部が身につけているというだけで本物に見えるから不思議だ。生まれ持った存在感というものがそうさせるのだろう。
 
「着物じゃねぇのな」
「人込みでは動き難いだろう」
「残念。見たかったぜ?お前の和装」
「跡部が着るのならば付き合っても良いが」
「俺の顔にゃ似合わねぇだろ?」
「いやそんな事は――――」
「ないわよ?景吾くん」
 ないだろう、と言いかけた手塚の言葉の上から覆い被さるように発言してきたのは手塚の母、彩菜であった。日頃控えめな母としては珍しい行動に「・・・・母さん」と呻くように呟きつつ、手塚は額を抑える。
 跡部を気に入っているらしい母は、下手をすると手塚を介さぬままに連絡を取り合う事すらあった。時には買物に付き合って貰ってもいるらしい。手塚が迷惑だろうから、断ってくれても構わない・・・・と息子の立場から謝罪の意味も込めて進言するが、跡部はゆるゆると首を振り、「いや。楽しいぜ?」と返してくる。
 何だか夫をそっちのけで嫁と姑が仲良くしているような気分だ・・と感じた事を口にすれば、「阿呆か!」と盛大に怒鳴られて蹴り倒されたりしたけれども。
 
「彩菜さん、お世辞は良いですよ?」
「いやね。こんな事お世辞で言うわけないじゃないの。景吾君なら何でも似合うわ。そうね・・・・普通の和服も良いけど、国光の横で振袖で並べたらもっとお似合いねぇ」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
 
 彩菜の言葉に息子とその友人2名は呆然絶句。
 こうして休みに二人で会う事は少なくないが・・・・・・互いの家への行き来も回数を重ね両手の指を超える程ではあるけれど・・・・・・それぞれの両親にもお目通りしており、またそれぞれ好印象を抱いてくれて、お互いそれぞれ家族ぐるみの付き合いとはなりつつあるけれども・・・・・・あくまで友人としてだ。
 少し前までは試合会場で火花を散らし合うライバル同士ではあったけれど、そこから幾分発展して気の許せる友人関係を保つに至っただけだ。それ以上の何者でもなければ、それ以下の何者でもない。―――そう、手塚と跡部は訴えている。常に。
 しかしながら周囲の誤解は派生発展増殖分裂育成―――と、とにかく二人の預かり知らぬ所でどんどん深みにはまってきている。ならばこれはいっそほとぼりが治まるまで互いに距離を取るべきか・・・・?と考えた事もあったが、他人の意見やあらぬ誤解の視線に左右されて疎遠になるというのは、何かが違う気がする。それにお互い得難い友であるという認識もあり、まぁいつかは沈静化するだろうと、希望的観測を抱きながら現在に至る。
 ちなみに二人の関係はそろそろ家族のみならず、友人達の間ですら公認となりつつあるのだが。人生はままならない。思い通り予測通りには進まぬものらしい。
 
「えーと。俺、男ですから振袖は遠慮しておきます」
「似合うとは思うが・・・・無理強いはするものではないな」
「手塚ぁっ?!てめぇ、何抜かしてやがるっ?」
「客観的意見を述べただけなのだが・・・・気を悪くしたならすまない」
「『すまない』 じゃ、ねーだろうがっ!自分に置き換えて考えてみろよな!『振袖』が似合うなんて言われて嬉しいか?」
「嬉しくはないが。だが俺には似合わぬだろう。跡部は容姿が整っていて、飛びぬけて綺麗だから振袖も似合うだろう、と思っただけなんだが、」
「似合わねぇっ!」
「いや似合う。別に着ろと言っているわけではない。事実を述べただけだ。俺はあまり詳しくはないが、母や無くなった祖母の着物はどれも跡部に似合いそうだ。だからもっと華やかな装いである振袖も似合うと思う」
「馬鹿かっ!てめぇ、頭ん中で想像しやがったな?」
「当然だ。似合うか似合わないかを数パターンシュミレートした結果、似合うという結論に達した」
「消せ!その脳内パターンを全て消せ!」
「無理を言うな」
 
 玄関先で口論する手塚と跡部。
 青春学園中等部・氷帝学園中等部の互いの学園においては生徒会長を務めた。そして部員数の多さ(青学は氷帝に比べれば小規模と言えるかも知れないがそもそも氷帝が破格なのである)と、多彩なメンバーを擁するテニス部を率いてきた名物部長。その統率性・沈着ぶりは音に聞こえたものであり、どちらも一般の中学生とはかけ離れた存在であったのだが・・・こうして喧嘩をする様は、十二分に子供っぽく年齢相応だ。
 じゃれあいの喧嘩に横槍を入れるのは馬鹿らしいというものだが、二人の様子をしばらく眺めていた手塚の母は「あらあらこれ以上お邪魔しては悪いわね・・」などと、包み込むような微笑みを浮かべつつ二人の傍らから離れたのだが、生憎と口論に熱中していた二人はそこでまた誤解を解く事をできぬのであった。
 
 
 
 
 
 
2006.01.01
 
[ 家族の肖像 ] 番外編
 
 
C L O S E