新入生達が集う入学式のその日、全てを薙払うような強い風が時折吹き付けた。
眩しい程の晴天の空は彼らの輝かしい前途を祝うかのようであったが、前日の強い雨により弱体化した花達には最後のとどめとなったようで、花びらによる絨毯が色鮮やかに道々を飾っていた。
でき得るならば今しばし、その儚気な美麗さをもって視覚を楽しませて欲しいと願ったものだが、生憎とその願い虚しく週末を待たずして満開の桜は散り切ってしまいそうである。
今年こそはと全国大会出場枠を目指す青春学園テニス部としては、春も夏もない。春休みの間も休む事なく学校へと集まりトレーニング漬けの毎日。
特に部長である手塚は生徒会長も兼任していた為、新学期が始まれば各種の行事に忙殺される。その憂鬱なる予測もあって、春休み中は特に厳しく部活動に一際専念していた。
新入生を迎える前に手綱を引き締めねばと、己ばかりでなく部員達にも厳しいメニューを課した。不満も文句も飲み込んで、部員達は黙って手塚についてきてくれた。
だからこそ、最終日に部員総意で出された希望、「入学式の日に皆で花見(当然ながら中学生の身であるので酒は厳禁。ジュースと菓子の持ち寄りである)を」という希望に手塚も頷いたのだった。
けれども。この様子ではそれもかなわないようだ。散り際の桜も美しいとは思うが、その真下において騒ぎ通すには少々騒々しい。見る間に花びら塗れとなってしまうであろう事は想像に難くない事だった。
無事な桜の木はないかと見回っていた手塚だが、どうやらそこまで根性のある木はないらしい。仕方ないと諦めて戻ろうとした先で、手塚は桜花に埋もれて眠る姿を見つけた。
風が木々を揺らすたび、はらはらと散り急ぐ薄紅色の花びらが、季節外れの雪が如く全てを覆い隠して積もり続ける。
眠れる佳人の印象的な泣き黒子のちょうど真上に、はんなりと一枚の花びらが舞い降りた。
まるで、桜花に抱かれて息絶えたかのような妖しくも幻想的な光景に身動きが取れない。
彼の顔を知っている。その人物を知っている。一方的な知己ではあるが、彼の姿は手塚の脳裏に強く焼きついていた。
ここに、居る筈のない人物。けれども彼が身に着けているのは、彼が本来その身に纏っているであろうとある学園の衣裳ではなく、青春学園指定の学生服だ。
墨染めの黒い学生服は彼の白い肌を引き立てていた。遠目にも美麗な人物と認識していたが至近距離で見る彼の姿形は更に美しい。整いすぎた外観は精巧な人形のようにも見えた。
ざざと風が鳴る。
叩き付ける花吹雪。咄嗟に視界を腕でガードした。
地を覆う花びらが巻き上がり埋もれた佳人を露わにする。ゆるりと開かれた瞳は青い。晴れ渡った空が如くの澄んだ色合いが、鉛を滲ませた曇天の如く見えた。
散り急ぐ桜花が満ちて満ちてゆく。
空虚な瞳を覆い尽くすかのように柔らかな花びらが周囲を満たしていった。
(散るチル満ちる)