カウントダウン
「オーダーを発表する。D1。忍足・菊丸」
一同に集められた選手達の空気が僅かに流れる。
榊の放った言葉は順当であり、意外性はそうなかった。どちらかというとシングルス向きの選手が集められたJr選抜。
その中でダブルス要員として確定権をもっていたのがこの二人である。
ただし、組合せに関しては前もって知らされてはいなかったので、菊丸も忍足も多少互いを探るような目つきで視線を交し合った。
今回のJr選抜はびっくり箱的な所がいくつかあり、その中のひとつがこのオーダーである。
本来であればもっと早い内に組合せは発表すべきであるし(何しろ学校が異なる選手同士だ)、それに合せた特練が必要な筈だ。
だが、情報漏洩を危惧したのかそれとも何か別の理由があるのか、コーチ陣は選手連にそれを伝えようとはしてくれなかった。
といっても、いついかなる組みわけが発表されようとも対応できるように、特にダブルス要員はそれぞれ自発的にコンビを組んで調整は行っていた。
元々実力のある者同士、大抵の事には即対応できるぐらいの力と順応性はある。
通う学校が等しい菊丸・不二・越前などは特に青学での部活中にもそれを主体に練習を行った。備えておくにこした事はないからである。
普通に考えれば相性の良い相手同士で組ませるのが道理だからだ。まぁここで普通を求めるのはまず無理だろうとは皆の共通した感であったが。
そんなわけで、意外性はなかった。この二人の組合せに関しては、だ。が、続く榊の言葉に室内はしんと静まりかえる事となる。
おいおいちょっと待てよおっさんよぉ〜と幾人かが心中やさぐれたかどうかは不明である。
「次にD2を発表する。この組は初戦を戦う事となるので大変重要である。勝負は先手必勝。必ず勝つ事を期待する。
さてその組合せであるが、この選抜チームにおいても最高の選手を引き合わせる事とした」
「―――」
「跡部・真田、前へ」
「「「「?!」」」」
衝撃なぞというものではなかった。皆の顔が驚愕に固まる。そんな中で動じていないのは、コーチ陣と、あとは指定された皇帝と帝王の二人のみである。
実は年齢誤魔化しているだろう、な真田はともかく、跡部の方はそれなりに喜怒哀楽を見せる方である。
が、この時の彼は氷帝部長モードというか、全くの揺らぎもみせなかった。
「太郎ちゃんも冒険家やな〜」
「初戦が大事、というのはわかるけどね」
「―――」
「跡部?」
「んでもねぇ」
上がった声に跡部の顔が微妙にひきつった。何か複雑そうな表情である。
「その割にゃ、不機嫌そうな面やで?綺麗な顔が台無しや」
「るせぇっ!」
「そうだよ。折角の花の顔、僕らにふるまってくれないと」
「―――不二。お前も忍足なみに頭が沸いているようだな」
にこり、とそれこそ花が綻ぶような笑みを向けられて跡部の口元がひくつく。
チームメイトの忍足に関してはやたらと口が廻り余計な事ばかりをべらべらと話すのでもう諦めてはいたが、青学の不二にまで趣味が悪い冗談言われて楽しいわけがない。
「ってより、そんな物騒な顔されてるとこっちも鬱陶しいんだけど」
「こら。越前。跡部に絡むな」
「・・・・・別にこの程度じゃ買わねーよ」
後輩を諭す手塚に跡部はひらひらと手をふった。氷帝にも小生意気な後輩は存在している。軽い挑発にいちいち乗る程、跡部も暇ではない。
「そうか。だが越前の言葉も全くの間違いではない。試合も近いんだ。冷静になれ」
「ああ?俺様はいつでも冷静だ」
「だが、不機嫌そうだ」
「‥‥‥‥・・」
じっと見透かすように見つめてくる手塚の目からついと視線を逸らす。追求すんなよ‥‥っと訴えたい所が本音であった。
その思いが通じたのか、それとも思う所がただ一緒だったせいか、忍足のフォローが横から入る。
「太郎ちゃんの采配が気に入らないんやろ?」
「―――別にいつもの事だ。突然言われるのもな」
「というと、もしかして跡部と真田もさっき初めて聞いたの?このダブルスの件」
「榊監督が今日発表するとおっしゃっていただろう」
「それでいいの?というより済むの?」
「一流のプレーヤーはいついかなる状況においても力を発揮できるからこそ一流なのだ」
「足ひっぱんじゃねーぞ、真田」
「それはこちらの台詞だ」
「大丈夫なの?この二人。ダブルスって協調性が大事だよ」
すぐさま喧嘩に発展しそうな二人を越前は呆れたように見つつ、部長の手塚に訴える。
「ああ?てめぇに言われたかねぇよ」
「跡部、越前はこういう言い方しかできないが、お前の事を気遣っているんだ」
「――」
「ふん」
「しかし、監督も人が悪いな。それだけ跡部を信頼しているという事なのだろうが」
「・・・・・ただの思いつきだよ」
ぽそ、と吐き捨てるように小さく呟いた跡部の言葉であったが、生憎とここの面々は皆耳が良いようで全員がきちっと聞き取った。
「何?」
「どういう事だ?」
「あれ〜自校の監督だからやっぱりよくわかっていちゃったりする?」
「もっとちゃんと説明してよ」
「言いかけるのはよくないよ、跡部。ちゃんとこちらにも意味が伝わるように説明してくれないかな」
「―――忍足」
非難と好奇心の視線を浴びた跡部は深く溜息をついた。面倒臭ぇ、と同じく気づいているであろう忍足に視線を向けるが軽く肩を竦められた。
「‥‥ちっ、仕方ねぇ。おい、千石」
「何々?跡部くん」
「今日のお前の運勢は?」
「え?もっちろん最高!ちなみにラッキーアイテムは泣き黒子美人!」
「‥‥‥(聞いてねぇよ)‥‥‥‥天秤座は?」
「あー。うん、あんまりよくなかったかな?波乱万丈匍匐前進。進む先々崖っぷち。あ、でもパートナーとの相性は良かったかな」
「――――お前は何が言いたいんだ?跡部」
会話の意図が掴めぬ真田が思わず口を挟む。が、それは真田ばかりではなく、彼らは他の者の思いを代弁したに過ぎない。
「だからそういうコトだよ」
ああ、面倒臭ぇっ!と今度は口にも出して跡部は毒づいた。その様子にようやく合点がいったかのようにぽんと忍足が手を叩く。
どうやら気づいたと思ったのは跡部の勘違いだったらしい。
「そういうコト‥‥?何やぁ?・・‥‥‥あ」
「?」
「?」
「?」
「?」
「・・・・・・・・・・・・・嘘やろ?まさか・・・」
「ようやくわかったか」
「どういう事だ?」
説明する気を放棄した跡部に代わり、忍足に皆の視線が集中する。その浴びるような視線を受けて忍足はこほんと咽を鳴らした。
「・・・・・・・・・・太郎ちゃん、な。目覚ましセ○ンのファンやねん」
「―――――は?」
一体何を言うのかと思えば、予測もしないような忍足の言葉に皆の反応が遅れる。それが一体何なのか――という所である。
「――毎日欠かさず見とんねん。今朝も見とった筈やで。・・・・・・・・・・・占いカウントダウンまでな」
重々しく言う忍足の言葉が静かに脳に浸透していく。それはもう、ゆっくりと。
これは彼らに理解力が無いというわけではなくて、ただ単に認めたくな〜い!という心の叫びが思考活動に反映されたに過ぎない。
「・・・・・・・・・・・・・・つまり」
「・・・・・・・・・・・・・・何?」
「・・・・・・・・・・・・・・え?嘘」
「・・・・・・・・・・・・・・ちょっと、待て」
「・・・・・・・・・・・・・・うわ。最高!おかしすぎ!」
「・・・・・・・・・・・・・・まだまだだね」
「言っただろうが。思いつきだってな」
思考硬直した面々に対し、跡部は静かに重々しく言い放つのだった。
嗚呼。
選抜チームに幸あらん事を―――
[ date: 2005/09/25 ]