テルテルボウズは三度笑う
 

 
 
 
 
 
 
 
「君と僕の間って、絶え間なく天の川だよね」
「あ?」
 突然突拍子もない事を抜かすのが千石の常とはいえ、唐突過ぎる言葉は意味不明ここに極まった。
「いやだからさ、会いたくて、会いたくて〜なのに、なかなかねぇ。跡部君の周囲、ガード無茶苦茶きついしさ。愛される部長さんな跡部君は魅力的だけど、俺としては時に切ないわけですよ。氷帝の皆さんてば、天の川の如く間に立ち塞がってくれるし」
「ふん。つまりそれで何が言いてぇ?」
 まわりくどい言い方は好まない。時に駆け引きは楽しいものでもあるが千石相手ならばいつでも直球勝負だ。
「え、いや、だからその、ねぇ?おデートの誘い、なんですけど」
「ほぉ」
 伺う目線に応えての相槌に聞こえるかもしれないが、跡部の心情的にはそんな意味ではなく、早く言え――と、そんなところだった。一体何の恨み言かと思えば、デートの誘いの前振りだったわけで。ある意味では、恨み言と取れなくもないが。
「や、だから怒らないでってば。だって七夕だよ?恋人同士のイベントには欠かせないでしょ?一年もの間耐えに耐えた二人がようやく会えるこの浪漫溢れるめでたき日に跡部君と過ごさずしてどうでしょうっ!てもんじゃない?」
「・・・・・・・・・・・」
 いやどうもするな、と、半眼気味に見据える視線に跡部の機嫌を害したと見たらしい千石は両手を合わせて平謝りに謝った。それでも、こちらの反応を伺う視線に諦めの意思は見えない。
 別にこうして部活帰りに顔を合わせる程度でも、跡部は充分に思うのだが千石は違うらしい。休みの日とて、跡部にとって優先順位が高いのはテニスだ。次いで、家に関わる雑務その他。その次はまぁテニス絡みといえるが、氷帝のテニス部メンバーに関わる事があれば、大抵の用事より優先する事となる。千石の相手をするのはその次ぐらい。曲がりなりにも交際している身としては、不満を感じて当然――と、忍足に諭された事があるが、このスタンスを変えるつもりは跡部にはなかった。
 個人としては最優先。そこに何の不満がありやがる、というところなのだ。とはいえ、ここのところ忙しさにかまけて放ったらかし過ぎた、という自覚はないでもない。だから、少しばかり譲歩してみるか、という気になった。
 
「てめぇの(無駄な)熱意はわかった」
「え?それじゃ」
 跡部の反応に千石が喜色を表す。駄目元で訴えていたらしい。
「デートしてやんねぇ事もねぇぜ?一年一回なんつー常にない健気さと殊勝さに免じてな」
「えーと。それってデートは一年一回こっきりって事?ええー?それは、どうしよう」
「不満かよ」
「跡部君に会えるのが一年一回じゃ我慢できないですー」
 じたばたと、玩具を前にした子供のように手足を暴れさせてみせる千石に、呆れよりも笑みが浮かぶ。図体はそれなりに育ち、黙って立っていれば通り縋りの女の熱い視線を受ける(跡部が隣に居る場合はその限りではないが)事もある癖に、時にこちらがひやりとするぐらい冴えた冷たい顔を垣間見せる癖に、幼い子供の所作が似合ってしまうのが千石という男だ。
 こうして明らかにわかる形で我がままを言われる事を実は嫌いではない。幼馴染であるジローにも通じる事であるが。
 
「ばぁか。冗談だ。ちゃんと、七夕特別デート、付き合ってやるよ」
 にっと、相手を惹きこむ自覚のある笑みを表情に乗せると、目論見通り千石はぽぉと見惚れてきた。
「――ただし」
「ただし?」
「晴れたら、な」
 パチリとウインク一つを放ってそう言い切ると、千石はあぁぁと全身から力を抜いて床へとへたりこんだ。
「やっぱりそーきたかぁ。何の!ラッキー千石の名にかけて、何としてもこのチャンス、絶対モノにしてみせるよ!」
「ま、がんばんな」
「でも何で七夕ってこの時期なのかなー。梅雨の最中じゃないか」
「旧暦ならそうでもねぇがな。あとは地方によっちゃ、八月に祭りをやる所もあるだろ」
「ということは、七夕一年三回。つまり、三回チャンスがあるって事?それでもって、もし、もしもだよ?三回とも晴れたら・・・・デートも三回?うん。俺、燃えてきちゃったね!」
「・・・・・・なぜそういう話になる」
 呆れる跡部の言葉は千石には届かぬようだった。
 
 
 
 
 
「なあ跡部、お前千石に何か言うたん?」
「何かは言ったかもな」
「はー罪つくりなやっちゃ。南が泣いとるでー。千石の奴、全校生徒を巻き込んで総出でテルテルボウズ大量生産しとるらしいわ。山吹の校舎、窓という窓、鈴生り状態やねん。ご近所さんの笑いものーちゅうか、御名所状態になっとるらしいで?」
「―――本気であいつは馬鹿だよな。ま、それで晴れたら、あいつのラッキーは本物ってぇ事だろ」
「何、他人顔しとんねん。他校で良かったわ、ほんま」
「・・・・・・あと二回、あるかもな」
「はぁ?何やてぇ?跡部!今からでもええ!山吹行って全校生徒に謝ってこいや!」
「いいじゃねぇか。村起こしならぬ学校起こしだろ」
「そない問題やない!!」
 
 意外に常識人な所を振りかざし、跡部に非難の視線を向ける忍足を他所に、跡部は晴れやかな笑みを浮かべるのだった。
 
 
 
 
 
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