パーソナルカラー
05.温もりのオペラ
04.高らかなるマルベリー
03.空より澄んだ水色の
02.揺れる海松色
01.シルバーグレイの空の下
B A C K
 
 
 
 
温もりのオペラ
 
 
 向こうっ気が強くて、調子に乗りやすく、一本気な熱い奴。宍戸亮とはそういう奴だった。付き合いの長さからいけば、ジローと張るわけで、ようは幼馴染と呼べる関係にあたるのだろう。
 だが、問われて答えるならば、「仲は良くない」と、口を揃えて言うであろう事は間違いない。分類するならば、喧嘩友達。宍戸は昔から、『跡部』という名に怯まない、関係ねぇと言い切る馬鹿な奴なのだ。
 何かってぇと、突っかかってきては自滅する。敵うわけなどなのに懲りない。周囲も「またやってるぜ」と失笑を浮かべる程であるというのに、宍戸は学習しない。「跡部に敵うわけないだろ」の言葉に、「ぜってぇ負かすっ!」と鼻息も露に立ち向かってくる。「跡部は特別なんだよ」の言葉に、「ばーか!アイツが特別なもんかっ!」と鼻で笑う。
 そうして・・・・「勝負だ跡部っ!」と、突きつけられる挑戦を、大抵の場合は付き合ってやる。そして完膚無きまでに叩き潰す。それが、宍戸と跡部の間における日常だった。
 本当に、懲りねぇ奴。ストレート1本勝負の一本気な奴。だがそんな宍戸の馬鹿っぷりが、跡部は嫌いではなかった。
 宍戸は跡部を特別扱いしない。思い込みからではあるが、本気であいつは同格だと思っている部位がある。
 宍戸は跡部に完璧さを求めない。常に跡部を倒すべく粗を探しているのだから、完璧では付け入る隙が無いというものだ。
 宍戸を相手にすると、跡部も馬鹿になる。年相応の顔を・・・・垣間見せたりしてしまう。その事に弊害を感じた時、跡部は宍戸を切り捨てようかと思った。
 跡部は氷帝学園のテニス部部長として、テニス部を導き、勝ち進む事を望まれていた。
 跡部は氷帝学園の生徒会長として、学園を代表する規範となるべく、完璧な理想像なるものを具現するように求められていた。
 ただの悪がきである事など・・・・求められてはいなかった。
 
2006.10.16 09月29日 宍戸。オペラ 天真爛漫/強靭な精神/鋭さと温かさ
 
高らかなるマルベリー
 
 
「違ぇって!そっちじゃねぇよっ!向こうっ!!」
「・・・・・・ちゃんと指示してください。そっちとか向こうでは意味がわかりません」
「わかんねーのに胸張んなっ!」
「張ってませんよ。怒鳴るなら誰にでもできます。時間がないんですから、余計な体力使わないで下さい」
「あーっ!くそくそっ!何でこんな奴とペア組まなきゃなんねーんだよっ!!」
「それはこちらの言いたい事・・・・としたいところですが、苦情は跡部部長に伝えて下さい」
「言って聞いてくれるような奴じゃねーだろっ!『四の五の抜かしてる暇あったら、少しは形にしやがれ』とか言われて追っ払われるだけだ」
「・・・・・・その意見には同意しておきます」
 
 少し離れた位置でトレーニングをしている一般部員達が、思わずそちらに注意を向けてしまう程に、向日と日吉の二人の口論は留まる所を知らない。
 元々、部内でも反りが合わないとして知られていた二人である。この二人が、全国大会へと向けてペアを組むと聞き、驚かぬ部員は居なかった。
 平然としていたのは、それを伝えた当の本人である跡部ぐらいではなかっただろうか。いや、表情を殆ど変える事のない樺地はいつもの通りであったし、何とか起きてはいるものの、今にも眠りこけそうなジローもまたさほど驚いた風ではなかった。
 だがそれ以外の部員達は、驚愕が過ぎると今度は大丈夫なのだろうか・・?と、心配気な視線を渦中の二人に向けたものだ。
 今までついぞ疑った事など一度もないのだが、跡部が自棄になったのではないかと一瞬思った程である。
 
「心配症のお袋みてぇな面してやがるぜ?」
「・・・・・・跡部かいな。驚かさんといて」
 脇を小突かれ慌てて振向いた忍足は、そこに人の悪い笑みを浮かべた部長の顔を見て取った。
「実際、おかんの気分やねん。大丈夫なんかいな、あの二人・・・・」
 今にも小競り合いが始まりそうな二人をはらはらといった態で見守る元相棒。健気な事だ―――と打たれるような心を、生憎跡部は持ち合わせていない。
「奴等の事は奴等に任せろ。おら、てめーも余裕かましてる場合じゃねぇだろ」
「ったぁ・・・・乱暴やで、部長さん。しゃぁないやん。心配で自分の練習に身ぃ入らへんわ」
「忍足」
 忍足の前からからかいの表情は消えていた。そこにあるのは、厳しさを称えた部長の顔。
「・・・・・・気ぃ抜いとるわけやないで」
「そんな事を言ってるわけじゃねぇ。てめーがそうして甘やかすから、向日の奴が成長できねぇんだ」
「―――な」
「あいつは手取り足取り教えてやらなきゃならねぇようなガキじゃねぇ。自分で考えて、自分で進んでいける奴だ」
「・・・・・・そんなん、わかっとるで」
「わかってねぇよ、てめぇはな。あいつは庇護されるような奴じゃねぇんだよ。高らかに飛んでいく奴だ。あいつが、日吉の奴を引き上げていくだろう。守られる奴じゃねぇ。あいつは・・・・育てる奴なんだ」
「・・・・・・何や、子離れされたおかんの気分や」
「俺に言わせりゃ、てめーの方が手間がかかって仕方ねぇよ」
 かっくりと肩を落とした忍足の背を蹴りつけるようにして、跡部はその場から移動させる。二人の背後では、ますますヒートアップしていく新生ペアの舌戦が繰り広げられていた。
 誰もがうまくいきはしないだろうと思った急造ダブルス。だが、彼等は跡部の目は確かなものであったと、この数日後には目にする事となる。
2006.10.15 09月12日 岳人。マルベリー 精神高揚/理想/家族愛
 
空より澄んだ水色の
 
 
 ジローって奴は、昔っから予測もつかないような突拍子もない言動と行動をやらかしてくれた。
 まぁ、素直に認めるのは今ひとつ頷けねぇところなんだが、振り回されていたというのは・・・・否定できねぇ。アイツのお陰で磨かれたとも言えるかもしれない能力が洞察力(インサイト)だ。仕方ねぇだろ。一つ先どころか三つも四つも先を見据えても、その遥か彼方をすっ飛んでくれる事があんだからよ。・・・・・別に嫌じゃないけどな。
 ガキの頃・・・・今となっちゃお笑い草だが、この容姿は好きじゃなかった。
 金色に近い薄い茶色の髪。人形みたいな白い肌。そして、薄いガラスみたいな水色の目。鏡を見るたびに映る自分の姿が嫌いだった。
 周りを見ても、自分と同じ容姿の奴はいねぇ。黒い髪、黒い瞳、黄色がかった肌の色。
 同じ色、同じ色、同じ色。
 どこまでいっても同じ色合いの中で、自分だけが異質だった。自然と、浮き上がってきちまうのは仕方がねぇ事だとは思う。
 日本は島国国家で、いまだに古臭ぇ鎖国の名残が残っているんじゃねぇかと思う。この国では、肌色の違う者は異分子なのだ。
 子供同士だからこそ、正直過ぎる言葉が放たれる。
 俺の姿を見て、「何か、気持ち悪い」といった奴が居た。
 「染めてるの?私もね、こんな色じゃなくてもっと綺麗な色がいいの!ぴんくとか!」馴れ馴れしく寄ってくる女が居た。
 ああ、勝手にするがいいさ。気持ち悪がろうと、てめぇの髪を染めようと、俺様にゃ関係ねぇ、と、言い放ちこそしなかったものの、無言でそいつらから俺は離れた。
 気分が悪い。気分が悪い。気分が悪い。
 同じではない。異なる存在。違う生物。
 一体何が違うというのか。俺の口から自分と同じ言葉が出るのが信じられないような顔をする奴も居た。ああ、もううんざりだった。
 その日は、『おえかき』をやることとなった。
 『おともだち』同士でペアを組んで、お互いの似顔絵を描くのだと。
 先生の合図と共に、歓声を上げながら仲の良い者同士が固まっていく。
 ―――跡部の周囲には、誰も居なかった。
「あら?けいごくんは、ひとり?」
「はい」
「誰かまだ組んでいないのは・・」
「別に、いいです。先生を描いても良いですか?」
「あら。嬉しいけど、今日はお休みの子は居ないから、全員ペアが組める筈よ?えーと、あ、居た居た。全くもう、いつも寝ちゃってるんだから。寝る子は育つって言っても寝過ぎよねぇ」
 溜息を吐きながら、その先生は窓際に転がっている奴の方へと歩いていった。こちらからは丸まった背と、ふわふわと柔らかそうな癖っ毛が寝息に合わせて揺れるのが見える。
「じろーくん、ほら、起きて。おえかきの時間よ?」
「ん〜ねみー」
「もう。そんなに寝ると目が溶けちゃうわ。ほら、ちゃんと起きて。お友達を待たせちゃ駄目でしょ?」
「ともだち〜?」
「・・・・・・・・・・・」
 眠そうに目をこすりながら、そいつは起き上がった。まだ半分眠りの世界に入っているみたいでトロンとしている。
 背中を押されて跡部の前に座らせられる。どうやらこいつとペアを組むしかないらしい。別に誰でも同じなので、どうでも良かった。
 うつらうつらと、殆ど寝ていた奴は最後の数分ぐらいという頃になって、いきなりぱちんと目を覚まし、それから猛然と何かを描き出した。
 出来上がったのは、紙面いっぱいに広がる水色。空のような水色が塗りたくられていた。
「やだ、じろー君、今日はお外の絵じゃないのよ?けーご君を描いてね、って言ったでしょ?」
「けーご?」
「あとべけいごくん」
「おめ、あとべって言うのか?」
「・・・・・・・ああ」
「俺はあくたがわじろー」
「あくたがわ・・・・羅生門かよ」
「らしょー?」
「何でもねぇ」
「仲良くなるのはいいけど、お絵かきもちゃんとして欲しかったわね」
「俺、ちゃんと描いたC〜」
「描いたって、お空でしょ?」
「あとべ、空みたいじゃん。俺、こんなすっげー綺麗な空、見たことないC〜っ!!ってより、空よりきれーじゃね?あれ、そーだよ、水みてぇーっ!」
「じろーくん、お水には色はないのよ?」
「・・・・・・・・・・・」
 窘めるような先生の言葉は跡部の耳を素通りしていく。ただ、その日、顔一杯で笑うジローの顔が・・・・おひさまみたいに輝いて見えた。
2006.10.15 05月05日 慈郎。水色 奔放な表現力/洞察力/主役
 
揺れる海松色
 
 
 誕生日が記念日というのはこれで結構辛い。しかもやたらとプレゼントが横行する日となると、微妙な配慮が必要となってくる。
 誰が決めたか聖バレンタイン。
 製菓会社の陰謀たる結果とはいえ、難儀な日である。
 その栄えあるもめでたき日に、鳳長太郎は生を受けた。女子にその日が知られれば大抵の場合チョコレートという結果となり帰ってくる。実は男子も似たようなもので。洒落であるのかそれとも机に乗り切らぬ程のチョコを貰う鳳に対する嫌がらせの意味でもあるのか、コンビニで買ってきたようなチョコを「そーいや誕生日なんだって?」などと無造作に渡されたりする。
 例年通り、そんな事が繰り返された中学1年の昼休み。教室内で弁当という気分にはなれず、食堂へと足を延ばすと学園一の有名人が居た。
「鳳か」
「はい。跡部部長もこれからお昼ですか?今日は樺地は居ないんですね」
「――呼び出し中だ」
「え?何か問題を起こしたんですか?まさかあいつが・・・・」
「ばぁか。そっちじゃねぇよ。告白タイムだ。あいつの良さがわかる女も居たって事だ」
「そ、それはおめでとうございます」
「俺に祝いを言ってどうなるってんだ。おい、どこへ行く?」
「席を確保してから跡部部長と自分の分の食事を取りに行こうと思いまして」
「・・・・お前は今日が主役だろ」
「え?」
「部員一人一人のパーソナルデータぐらいここに入ってんだよ」
 こめかみのあたりをトントンと叩きそんなことを言う跡部に鳳は尊敬の念を深めた。
 部長であるから、それだけで済むような問題ではない。何しろ氷帝テニス部部員は二百名を超すのだ。
「おら、向こうで待ってろ」
「だ、駄目ですよ。部長にそんな事をさせてしまったら俺、後で殺されます。誕生日にそんな羽目にあいたくないですよ。そ、そうだ。席を取っておいていただけませんか?食事は俺が取りにいきますので」
「ま、構わねぇがな」
「ありがとうございます!」
 跡部の言葉を受け、鳳は急いで配膳コーナーへと向かった。
 
 緊張気味ながらも――実の所面倒見の良い跡部であるので――鳳のフォームにおける問題点や試合運びの改善点を、食事をしながらの合間にマンツーマンで指導うけることができた鳳は、己の幸運と幸福をかみ締める。
 憧れの人物である跡部にこんな風に親身となって貰うなど、一年生部員としては夢のような出来事だった。個として認識されているだけでも、大層喜ばしいというのに、自らの誕生日も知ってくれていた。何となく食傷気味でもあったバレンタインデーが、いきなり輝かしく思えてくるから現金なものだ。
 トレイの上がほぼ空となってきた頃、今思い出したかのように、跡部が「そういうや、誕生日だったんだよな・・・・」と小さく呟いた。「ええ」とも「はい」とも、何と答えるべきかわらからず、鳳は食事中である事に助けを求め、最後の一口を口に含む事で反応を流した。
 トン、とテーブル上を軽く指で叩くと、跡部はポケットから何か小さな瓶のようなものを取り出した。
「誕生日プレゼントがわりだ。やるよ」
「あ、ありがとうございます。これは・・・・オリーブ・・・・、ですか?」
「ああ。ピクルス食いたいとか抜かす奴に、少しもってきてやったんだよ」
「そ、それを俺が頂くわけにはいかないのでは・・」
「不満か?」
「い、いえっ!そういう意味ではなくて!」
「ふ。そいつには、明日にでもまた改めてやるさ。それより、そいつはお前の色なんだぜ?」
「俺の色?」
「――――海松色。二律背反、気品と威厳、誠実。ま、当たってない事もねぇか」
「俺ってそうですか?」
「二重人格って程じゃないけどな」
「性格、悪いんでしょうか。俺」
「テニスプレーヤーとしてはいいんじゃねぇの?。人が良いばかりじゃなくてよ、それこそな、えげつねぇ部位があってもいいぐらいだ」
「が、頑張りますっ!」
「ばぁか」
 オリーブの瓶を握りしめて強く宣言した鳳に、跡部はとても穏やかな笑みを浮かべた。
2006.05.28 2月14日 長太郎。海松色 二律背反/誠実/気品と威厳 
 
シルバーグレイの空の下
 
 
「樺地」
「ウス」
 常に跡部の傍に仕えるかのように佇む樺地の姿というものが日常化するまで、それほどの時と日数はかからなかった。
 中学に入学したばかりの頃から、周囲と一線を画した体躯で、これが少し前まではランドセルを背負っていた(といっても、外観的なものもあり、早々にお払い箱となったらしいが)など冗談だろうという偉容をもって、樺地という少年はよくも悪くも周囲の注目を集める。
 いまだ初々しさの残る新一年生の群れの中、頭一つどころではない飛び抜けぶりは、入学式の間も同じ一年生に限らず、在校性、教員、保護者来賓に至るまでついつい好奇の視線を向ける始末で、樺地の方は慣れているとはいっても少なからぬ重圧を受けていた。
 式が終わってざわつきながら退場を始めた新入生のもとへ、まるで海を切り開くように鮮やかに颯爽と、凄烈かつ鮮烈な、鮮やかすぎる存在がカツカツと足音を立てて歩み寄ってきたのはその時で。
「入学おめでとう、樺地」
「跡部、さん」
 にこやかな笑みを浮かべる跡部に樺地もぎこちないながらも表情を僅かに表情を崩す。当然周囲の注目度は当然増している。けれども、その全てが引き寄せられるように跡部へと流れていった。
 意識、無意識ながらも跡部は視線を、意識を掌握する術に長けているという事だろう。
 そこに立つだけで、在るだけで、光りを放つような輝ける存在である跡部の事を、まだ入学したばかりの新一年生達も脳裏に焼き付けている。彼らの入学を祝う為に壇上にて祝辞を述べてくれた生徒だからだ。
 本来は生徒会では副会長職(まだ二年生であるらしくそこからも優秀さが伺い知れる)である跡部。本来その役目は会長が行うべきであるが突然の高熱にダウンしてしまったらしい。急遽代理で立ったはずなのに、鮮やかすぎる程に冴え渡り、堂に入った弁舌ぶりだった。
「悪かったな、式の前に祝えなくてよ。突然の代理指名でばたばたしちまってな」
「ウス」
「しっかし、また育ったんじゃねぇか?その制服、だいぶ緩めに作ってあるようだが、小さくなるのもすぐなのかもな」
「ウス」
「今日から顔出せるんだろ?監督の方には話は通してある。もちろん扱いは他の新入部員と一緒だが、お前ならばすぐに頭角を表せるはずだ」
「ウス」
「何しろお前はこの俺様が見込んだ樺地だからな」
「ウス」
 呆気にとられる一般生徒達の前で、一方的な、しかし本人達はそこに疑いもなく普通に受け答えしているらしい会話が繰り広げられ、どうやらこの大柄な新入生は、あのやたらと目立つ先輩と既知の中であるらしい、と周囲に認識された。
 
 
 吐く息が傍らから白くなり、見上げるように空を見上げた樺地の足下に、影が落ちた。年の暮れはまだ幾分寒さも緩く感じたものだが、年が明けてからの冷え込みは厳しい。そして、数日間の休みを経た体は、ほんの少し鈍っているように思えた。
 
「新年初部活だな。―――おめでとう」
「ウス」
「年明けの挨拶じゃねぇぞ」
「・・・・・・それは、元旦の日にいただきました」
「そーいやそうだったな。家で、無理はさせられなかったか?」
「ウス」
「お前は辛抱強いが、限界を知らねぇところもあるからな。―――どうした?」
「入学式の日も、こうして声をかけて頂いたのを思いだし、まして」
「ああ、ありゃ牽制だ。お前は目立っていたからな。運動部系はこぞって狙ってたんだよ。だが、この俺様のお手付きとくりゃ、誰でもあきらめっからな」
「・・・・・・ウス」
「嫌だったか?」
「いえ。テニスが、やりたかったです」
「そうか」
 にっと笑う跡部は嬉しげで、常に口元にたたえる皮肉さはそこにはなく、満腹の猫のような満足気な様だった。
「お前の外観だけを見て判断する奴等が多いからな。ああ、お前は気にしなくて良い。ゆっくりと、中も外見に似合ったように熟成していくもんだ。お前はもともとバランスと調和に優れている。必要なのは時間と経験だ。ただし、隠すんじゃねぇぞ。俺様の目には丸わかりだが、大抵の奴はそのまま大丈夫だと、判断する。もう駄目だと思ったら、口に出せ。態度で示せ。俺様が傍らに居てもだ。いいな?」
「――ウス」
 
 涙のこぼれ出しそうなシルバーグレイの空の下。そこにあっても樺地の傍らには常に、澄み渡った青空がある。
 
 
 
2006.05.28 1月3日。樺地。シルバーグレイ 勇気/バランス/経営力
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