■ Happy Birthday
 
 
 
 中学生活の全てを彩った部の活動も引退して。 (時折指導と称して顔を出す事はあるけれど)
 本来なれば受験に専念という所だけれど、内部進学を決めた身には世間一般の受験地獄は関係ない。 (とはいえ試験があるにはあるのでただ安穏と過ごすわけにもいかないけれど) まぁそんなこんなで少しばかり暇と余裕を持て余した日常の中で、俺は誕生日その日を迎えた。
 
 
 
「よ、おはよ」
「―――いくぞ、樺地」
「ウス」
「・・・・・・・・・・」
 くそ。素で無視しやがった。
 珍しく喧嘩腰にならず、にこやかに朝の挨拶したってぇのに。振り上げた手の行き所を失っちまう。
 しかし毎朝早ぇよな。現役時は朝練があったわけで、さらには部長の勤め上一番にコート入りしていたみてぇだから(跡部に従って樺地も一緒だったが)長年の習慣が身についているのかそれともパターンを変えるのが面倒臭いのか、跡部の登校時間は従来に合わせてとても早い。
 まぁ樺地は1学年下の2年であるので、俺達と違い依然現役テニス部部員だ。
 別に俺達も当然の事ながらテニス部を辞めたわけではない。全国大会を経て・・・・実の所はその前の関東大会敗退を経てではあるが・・・・引退という線引きをしている。  だから樺地は今も朝練には出なければならない。だが日課となっているのかやはりこれも身についてしまっているのか、跡部を迎えに毎朝律儀に跡部邸へと顔を出す。 そして今まで同様に荷物を持つのだ。その忠誠心溢れる従者と主の姿は、もう一枚の絵のように引き剥がしようがないのかもしれない。
 だから跡部は樺地の為に、習慣を変えようとしないのだろうか。まぁ本人に聞いた所でそうと答える筈もないだろうが。後輩思いで心配りの細やかな跡部なんざ、想像するだに空恐ろしいものがある。(――まぁあれでいて跡部がかなりな後輩思いで面倒見が良いのも事実ではあるんだけどよ)
 っと、少し考え込んでいたらあっさり置いていかれちまった。ぴんと真っ直ぐに背を伸ばしきびきびと歩く跡部の後ろにのっそりとだが一歩と離れる事なく追従する樺地という目立つ二人の姿が結構な先にある。行き先は同じ(登校途中だから当然だが)なので見失う事はないけれど、このまま見送ってしまっては本来の目的を果たせない。俺は慌てて二人の背を追った。
 
「おいっ!待てよっ!」
「――――んだよ」
 一挙に距離をつめ、吐く息も荒く呼び止めた俺に、面倒そうに振り向いた跡部は肩越しに首を巡らしただけで、ついでに飽きる程に見てきた筈なのに全く見飽きる事のないお綺麗な顔はやはりとても面倒そうに顰められていた。
「置いてくこた、ねぇだろっ!」
「連れ立って登校する理由も意義も必然性もねぇだろ」
 うわ。あっさりばっさり切り捨てやがった。あいっっっ変わらず冷てぇっつーかつれねぇっつーか。
 ・・・・・・俺。確か幼馴染ってぇ奴だったよな?俺の記憶に間違いがなければ。だのに何故これほどぞんざいな扱い受けんだろ?(←己の普段の行動・言動が要因とは考えもつかない)
 だがここでめげてあっさり引いてはお話にもならない。跡部と付き合うには(特別な意味じゃねぇけどよ)根気と根性と負けん気と忍耐と大らかさとある意味鈍感さが必要なんだ。あ、あと馬鹿は嫌い(学業成績に対してではないようだ)だって公言してっから、察しが悪いとクソミソに罵倒もされる。
「俺にはあるんだよっ!」
「てめぇにあろうと俺にはねぇよ」
「・・・・・・・・・・・・」
 これまた袈裟懸けに一切りみたいにばっさりだ。なぁ樺地、お前もどうにかフォローしてくれよ。んな困ったような目で見つめるぐらいなら、少しは俺の後押ししてくれてもいいと思わねぇ?悔しいけど、俺の言葉じゃ無理だが樺地の言葉には、一応耳傾けるからな、こいつ。
 と、視線で訴え待った所で生憎と思う通りには誰も動いてくれそうになかった。
 仕方ねぇ。協力が得られねぇなら単独突破しかねぇ。くそう、せめて長太郎でも引っ張ってくりゃ良かったと、ひとつ年下の背が高く人の良い笑みを浮かべる後輩の顔が思い浮かんだ。が、ここには居ないのだからやはり独力で動くしかない。・・・・ちっと虚しいけど。
「俺、今日誕生日」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 反応なし。
「9月29日は跡部景吾さんの幼馴染宍戸亮くんの誕生日なわけだな」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 くそ。まだ反応しやがらねぇ。しぶてぇぞ跡部!・・・・実はお前、俺の事嫌い・・・・?
 ちっとばかりへこみながらも、再度チャレンジ。
「――誕生日おめでとうぐらい、言えねぇのかよ・・・・」
 ぼそっと少しばかり恨めし気に訴えてみる。
 そう。別に跡部に高価なプレゼントを貰いたいとかそういうのが理由なわけじゃねぇ。ただ、誕生日ぐらいはこいつに「おめでとう」の一言貰ってもいいと思わねぇ? まぁ、それだけなんだけどよ。
「ふん。別にめでたかねぇだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ああっ!そうかよっ!悪〜かったなっ!どうせ俺如きの誕生日なんかめでたくも何ともねぇよっ!
 逆切れってわけでもねぇけど、跡部の今の言葉はかなりがつんときた。
「ま、言うだけ言うぐらいならいいけどな。しかしてめぇ、自分で催促するなんざ、虚しくねぇか?」
 虚しくて悪かったなっ!けどよ、お前言わなきゃ忘れてんだろーがっ!!どーせ俺なんてよっ!!!―――あれ?
「え?あれ?跡・・・・部?」
「んだよ」
「言うって言ったか・・・・・・・・?」
「悪ぃか?」
「いや悪くねぇけどよ」
「言って欲しいんだろ?」
「・・・・・・・・・・聞きてぇ」
 跡部の言葉に俺はいつもの意地を張らず、素直に答えていた。―――聞きてぇんだよ。
 
 
「――宍戸」
「な、なんだよ」
 静かに振り向いた跡部に知らず呑まれる。くそ。激ダサだぜ。
「誕生日、おめでとう」
「・・・・・・・・・・お、おう・・・・・・」
 
 自ら催促した祝いの言葉。
 しかもやたらと素っ気無い祝いの言葉だってぇのに、それを耳にした途端、俺は見事なまでにうろたえまくった。
 
 
 
 
2005.09.29  (背景画像 / clef  様)
 
「おめでとう」の一言を言わせたかっただけの話なのでした。
実の所は覚えているし祝う気もあるです。
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