■ Happy Birthday
 
 
 
 
 
 特別な日なんてない。
 いつもと同じだ。
 何も変わりはない。
 その筈、だったのだけれど―――
 
 
 
 
「日吉〜っ!!」
「・・・・・・・・・・・」
 息せき切って駆け寄ってきたのは同年代のチームメイト。いつもにこにこと楽し気に笑みを浮かべている。見た目通りの性格が良い奴だ。捻くれまくった自分と違い、誰にでも好かれる奴だ。人付き合いが得手でない自分でも、嫌いになれない奴。
「・・・・・・何か用か」
「あはは。その物言い、跡部さんに似てきたね」
「・・・・・・・・・・」
 指摘されてむっと口を噤む。そんなつもりなんてない。あの人の真似をするつもりなんて全くない。猿真似なんて、それこそ冗談ではない。あの人の軌跡をなぞるだけの存在になんて、なりたくなかった。
「それより今日の帰り、部活休みだし何処か寄っていかないか?」
「・・・・・・・いかない」
 こんな風に鳳が誘ってくる事が全くないわけではない。その全てを断っているわけではないけれど、今日は付き合う気にはなれない。裏にある魂胆があからさますぎだった。
「ええっ?何か大事な用でもある?」
「別に、ない」
「だったら・・」
「行きたくない」
「・・・・・・・・・」
 途端に鳳がしゅんとしょげ返る。
 こんなだから、犬のようだと言われるんだ。大きな体で人懐こい、犬のような奴。
 別に悪い事をしているわけではないのに、罪悪感がちくりと浮かぶ。だから、鳳は苦手なんだ。嫌いじゃないけど・・・・苦手な奴なんだ。
「鳳、無理言うたらあかんで。日吉かてそうそう暇やないやろ」
「デートかもしんないぜー?」
「えっ?そうなのか?!」
「・・・・・・・・・」
 そんなわけがない。激しく誤解だ。人を玩具にしないで欲しい。だがこの人達の事だから、否定すれば断る理由を更に追求されるだろう。それならば黙って曖昧にした方がよさそうだった。
 それにしても相変わらず引っ掻き回してくれる人達だ。忍足先輩と向日先輩のダブルスペア(全国大会ではコンビを組ませて貰ったが)は日常面でもお騒がせコンビだ。
「お、そや。忘れたらあかん。日吉にプレゼントや」
「侑士と一緒に選んだんだぜっ!」
「・・・・・・・・・・・・」
 満面の笑みを持って手渡されたのは――鉢植え。何故に鉢植え?緑の葉と鮮やかな赤の色合いは綺麗ではあるが・・・・・・謎だ。そしてこれを自分に一体どうしろと?
「忍足先輩。これってポインセチアですよね。クリスマス用じゃないんですか?」
 興味深そうに鳳が鉢植えを覗き込む。身長差からいって屈み込むようにしてだが、その差が少々むっときた。同じ2年の樺地もそうだが鳳も背が高い。背の高さがテニスの腕前に比例するわけではないけれど、立派な体格はやはり羨ましい。勿論個人差があるので、自分だってこれぐらい伸びるかもしれない。そうすればもっとパワフルなプレイができる筈だ。
 そんな日吉の内なる葛藤を他所に屈み込んだ鳳の背後から先輩二人が声をかけてきた。
「枯らさんかったらクリスマスにも使えるやろ?」
「いっせきにちょうって奴だよな!」
「・・・・・・岳人。一石二鳥の漢字も知らんのかい」
「な、なんだよっ!そんなわけないだろっ!」
「思いきり平仮名読みやったわ。その調子で期末大丈夫なんか?」
「へっ!今度は赤点なんかとんねーよっ!」
「ならええけどな」
 きーきーと怒る向日先輩と軽くあやす忍足先輩。やっぱり相変わらずな二人だ。そんな二人に押し付けられた鉢植えを抱えたまま、鉢植えを突っ返す事もできない。
「なぁ侑士、花だけじゃやっぱつまんなくね?」
「せやな・・・・・よっしゃ、オマケつけたるわ」
 軽く考え込むと忍足先輩は鞄の中からごそごそと何かを取り出し、「これで泣けんかったら情緒不足やな」などと言って日吉の手にそれを載せてきた。どうやらDVDのようだ。
「忍足先輩。それって見終わっていらなくなった奴とか言いませんよね?」
「はは。鳳、何言うとんねん。そない穿った考えしとると大きくなれんで?」
「これ以上大きくなってもちょっと困りますね」
「はは。言うようになったやんか」
「それはもう鍛えられましたから」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 妙に爽やかな笑みを浮かべあった二人の会話についていけない。向日先輩はといえば、二人の間で欠伸を噛殺していた。こういう所が自分はまだまだなのだろうか、と日吉は軽い落ち込みを抱く。
「侑士ー、そろそろ行こうぜ」
「せやな。渡すもん渡したし。日吉、『誕生日おめでとさん』」
「おめでと!!――じゃぁなっっ!」
「・・・・・・・・・・え?」
 それだけ言い残すと、二人はさっさと行ってしまった。まるで嵐が駆け抜けたようだ。
「相変わらずな御二人だな。だけど何でポインセチアなんだろう・・・・?」
「日吉の誕生花がポインセチアだからじゃないかな」
「あ、滝先輩!」
「俺も居るC〜」
「・・・・芥川、先輩」
 声のした方を振向くと、常に穏やかな笑みを浮かべる滝先輩といつも眠そうにしている芥川先輩がこちらにひらひらと手を振っていた。
「誕生花って、そうなんですか?」
「うん。ほら忍足はそういうの好きだからね」
「そのDVDも多分恋愛映画だよー。俺からはこれ。はい、誕生日プレゼント〜」
 ぴょん、と跳ねるように近くに寄ってきた芥川先輩が小さな箱を、鉢植えを抱えた日吉の手の隙間に載せてくる。パッケージからしてポッキーの小箱のようだ。――しかも封が開いている。だがプレゼントと言われたからにはプレゼントである。礼を言うのが当然の事なので、日吉は戸惑いながらも礼を言った。
「・・・・・・ありがとう、ございます」
「俺からは、『ぬれせんべい』。日吉、好物だったよね?」
「・・・・・・滝先輩も有り難うございます」
 最後に渡された品が一番実用的というか、日吉の好みにマッチしていたものではあった。食べ物ではあるが。
「んだぁ?てめぇら廊下で何たむろってるんだ?」
「宍戸さんっ!」
「理由は見りゃすぐわかんだろ」
「てめ、まるで俺が察しが悪ぃみてーじゃねーか!」
「その通りだろ。よくわかってんじゃねぇか」
「んだぁ?跡部!喧嘩売ってんのかよ!」
「わわっ!宍戸さんも跡部さんも!こんな所で口論始めないで下さいっ!」
 鳳が慌てて二人の間に割って入る。最も、頭から湯気を出している宍戸先輩と違い、面白がっている表情の跡部部長――跡部、さんは宍戸先輩をからかって遊んでいるだけなのが見ていて明らかであるのだが。
「今日は日吉の誕生日だから、滝とジローは日吉を祝ってんだろ」
「はぁ?それならそうと早く・・・・・・・・って、日吉!本当かよ?」
「え?ええ、まぁ・・・・はい」
 いきなり水を向けられてはっと身を正しながらも頷いた。ただその噛み付くような宍戸の剣幕よりも、跡部さんが誕生日を知っていたのか・・という点の方に驚きのポイントがあったが。
「マジかよ・・・・俺ぁ知らなかったぞ。知ってりゃ何か用意したのによ」
「いえ。そのお気持ちだけで充分です。有り難うございます」
「そーいうわけにいくかよ。可愛い後輩の誕生日くらい祝わねぇとな。長太郎!そういう事は早く教えろよな!」
「はっはい!宍戸さん!すみません!」
 直立不動で謝る鳳。ここは鳳が謝る所ではないのでは・・・?と日吉が抱いた疑問を跡部が行動で表した。
「てめーの怠慢を後輩のせいにすんじゃねーよ」
「るせぇっ!」
 小突く相手を睨みつける宍戸先輩はそれでも大きく出れないようだ。八つ当たりに近い事をした自覚があるらしい。
「しょうがねぇ奴だな。おら、日吉、俺からの誕生日プレゼントだ。そこそこ面白かったぜ。夜にでも楽しみな」
 ひょいと脇に抱えていた本を差し出される。ちらりと装重に目をはしらせると、『バミューダトライアングル』の文字が目に入った。バミューダトライアングルといえば魔の三角区域の事だ。学園七不思議系の本を好む日吉の趣向に合わせて、なのだろうか。
「それってさっきまでてめーが読んでいた本だろ?お下がりやんのかよ。激ダサだな」
「ばーか。やる前に中味確認していたんだろうが。つまんねぇ内容だったら捨てるつもりだったんだよ」
「跡部も本読むの好きだよね。だけど何でバミューダトライアングルなの?」
「誕生日繋がりだ」
「跡部ーそれってどういう意味ー?」
「12月5日は『バミューダトライアングル』の日でもあんだよ。――日吉らしいっちゃぁ日吉らしいのか?」
 くくくと口元に手を当てた跡部さんは笑いを噛殺しているような表情だ。
「・・・・・・・・・・・・」
 
 手の中には先輩達のプレゼント。菓子、鉢植え、DVD、そして・・・・・・・・一冊の本。
 抱えこんでいるうちに段々と重みが増してくる。
 
 だけど。
 
 正直に口にする事なんて決してできないけれど。
 この人達の前でそんな素振りは決して見せたくないけれど。
 
 
 腕の重みが心地良い。
 胸の奥が暖かい。
 
 思いもかけぬプレゼントの山を、日吉はくすぐったすぎる想いを抱えてぎゅっと抱きしめた。
 
 
 
 
 
 
 
2005.12.10  (背景画像 / Okey dokey!  様)
 
 誠に遅くなりましたが。日吉。Happy Birthday!!
/ B A C K /