▽/ 硝子越しの言葉  (前編)
 
 
 
 
 
 
 
 ざわりと校門前が騒がしい。
 
「―――あれって」
「・・・・・・じゃねぇ?」
「きれーっ」
「うわっ!やっぱり格好良いっ!!ねぇっ!ちょっと声、かけてみないっ?!」
「えぇっ!無理だよっ!!怒鳴られちゃうよっ!!」
「誰待ってるのかなー?」
「けっすかした面しやがって・・・・」
「――の奴が何の用だってんだ?」
 
 授業が終わり、部活動等に勤しんでいない者達が下校する時間とあり、正門前は帰宅する為の生徒達がぞろぞろと通っていた。 そんな彼らが判を押したように一方向を見てはひそひそと隣に立つ者に話しかけながら、校門を抜けていく。奇妙な程にその一角から輪を開くような空間を開けて。
 
 
「――あれって」
「どうした?」
 テニス部へと赴く為に連れ立って歩いていた手塚の袖をついついと不二が引っ張る。
 正式な部員としての活動は全国大会の終了を機に三年生は引退している。が、週に何度かは後輩たちの指導という名目で部に顔出しをしていた。その途中での出来事である。
「校門前に、見た事ある奴が居るよ」
「見た事のある奴?」
 ただの偵察ではないかと思えた手塚だったが、それならば中に入り込んで来る筈である。それが門も前に立っているというのならば誰かを待っているという事なのだろう。 不二の言うように顔見知りであるならば、挨拶の一つはするべきかと、礼儀を重んじる教育を課せられてきた手塚はそう思った。
「・・・・跡部?」
 外へ一歩踏み出すとざわめきが強まった気がして不可思議に思いつつ、不二に指摘された人物の方へ視線を動かして一瞬固まる。
 サラサラという擬音が見事に当てはまる柔らかそうな金茶の髪の下、小造りな白い顔のパーツは計算し尽くされた人形のように精緻で精巧だ。 他者を圧倒するオーラは健在で、青学の制服に身を包んだ生徒達の中で異彩を放つ氷帝学園の制服であるというのに、何にも侵されぬ気品を放っている。
 軽く壁に背を預け、腕を組んで立つ様は確かに人を待っている風であった。 が、声をかけれるような隙は何処にも存在しておらず、よって青学の生徒達は跡部に気を引かれつつも距離を取って離れた位置から盗み見るようにして去っていく。
「―――よぉ」
 こちらに気づいた跡部が心持斜めに顔を上げ、むっつりとした表情を崩す。だがそれは友好的、友愛的なものではなく、倣岸な帝王さながらの笑みであった。
「・・・・奇遇だな」
「この状況でそれを言うてめぇの天然さは大したもんだぜ」
「そうか」
 はっと嘲るような笑みを口元に浮かべる跡部に、確かに偶然というのはおかしいと思いなおす。氷帝学園から青春学園までの距離は短くはない。偶然通りかかるような場所ではないし、第一人を待っていたように見受けられたのだから、親しい生徒が青学に在籍していると聞いた事はないが、誰かに会いに来たのは間違いないだろう。
「・・・・いーけどよ。ちょっと、いいか?」
「俺に対して言っているのか?」
「他に誰が居るってぇんだ。てめぇの事だ。てめぇの」
「それはすまない。長くかかるか?できれば手短に済ませて欲しいのだが」
「大してかかんねぇよ。ちっと聞きたい事があるだけだ」
「あ、そう?なるべく早く開放してね。そうでなければ、氷帝の女王様にうちの部長が拉致されたって皆に言っちゃうよ」
「元だろ。別にキナ臭ぇ話じゃねぇから安心しろ。それと二度とその名で呼ぶな」
「はいはい(くすくす)――手塚、後でね」
「ああ。すまない、不二。先に行っていてくれ」
「じゃぁね」
「・・・・・・・・・・」
 にこやかな笑みを浮かべて去っていく不二の背を見つめ、跡部は「相変わらず食えねぇ奴」と小さく呟いていた。その感には手塚も大いに頷ける所であった。
 
 
「それで。話、とは?」
「・・・・・・・・・」
「跡部?」
「・・・・・・・・・は」
「?」
「てめぇは・・・・手塚はよ、愛想はねぇし融通は効かねぇしぶっきらぼうで無愛想の癖に何処か抜けてて、糞真面目でコチコチの石頭で――」
「―――跡部。お前は俺を詰りに来たのか?」
「んな暇人じゃねぇよ。・・・・手塚は、好かれてるよな。青学の連中に」
「お前も好かれているだろう。充分過ぎるぐらいにな。熱狂的ですらないか?レギュラー陣は普通に等身大のお前を好いてように見えるが」
 手塚の言葉に跡部はふっと笑みのような表情を浮かべた。だがそれはいつもの自信に塗れた倣岸な笑みではなく、何処か寂し気にすら見える。
「――あいつはいつも笑っている。激した所は見た事ねぇ。一歩引いた位置で見守るようにしていんのが常だ。本気になるのも滅多にないがな」
「眠れる天才、か」
「本音が見えねぇ。いつでも開いている扉のように見えて、閉じられてんだ。押しても引いてもびくともしやがらねぇ。鍵穴すら見当たらないんだぜ? で、無理に抉じ開けたとしても、その先は恐らく冷凍庫だ」
「・・・・本音を曝すばかりが友人というわけでもないだろう」
「友人。友人、ね。俺はあいつと友人なのかね?」
「不安に思っているのか?」
「さぁね。――生まれた日を祝う気にならねぇってのは、どういう状況だ?」
「提示されるデータが足りない」
「乾かよ」
「他人の心の機微には疎いんだ。むしろ逆撫でしているらしい。不二に相談した方が適切ではないか?」
「不二ぃ?・・・嫌だね。ま、話聴いてもらいたかっただけだ。手塚相手でまともな答え返ってくるとも思えなかったしな」
「・・・・・・・・・」
 だったら話を持ちかけるなと手塚は言いたくなった。だがこんな風に僅かなりとも本音を曝け出せる相手が跡部には居ないのだろう。 仲間には決して弱音を見せぬ跡部であるから、こうして自分の所になどやって来たのだ。
「んな顔するなよ。助かった。少し、ガス抜きできたからな。俺様が気遣って曖昧な態度なんざしても、された方が戸惑うだろ?」
「確かにな」
「そこで肯定されてもむかつくけどよ。‥・・いつも通りに接するさ。ただ、アイツラは効かねぇだろうなぁ。昨年逃げられた忍足の誕生会の雪辱戦だって燃えてたし」
「誕生会か。そういえば先程誕生日がどうと」
「――明日、あいつの誕生日なんだよ」
「そうか。近い生まれだったんだな」
「近い?」
「俺は7日の生まれだ」
「・・・・・・・・・・・・そーかい。遅ぇが、おめでとよ」
「ああ。ありがとう」
「・・・・・・・・・・・・ちなみに俺は4日の生まれだ」
「そうだったのか?遅れてすまないが、おめでとうと言っておこう」
「ありがとよ。はっ!俺とお前と忍足と、揃って天秤座かよ。あ、宍戸の奴もか」
「性格が似通っているとは到底思えないがな。つまりは星占いなどあてにならないという事か」
「んで星占いだ?柄でもねぇ」
「不二の姉が、そちら方面の本を出しているとか」
「そりゃ結構なコトで。っても千石あたりならともかく俺にゃ興味もねぇことだが」
「千石?山吹の?」
「ラッキーを付けろだとよ。あいつも掴み切れねぇ奴だが・・・・・・ま、忍足程じゃねぇか」
「跡部」
「んだよ」
「油断せずに行け」
「何にだよっ!」
 激励とは全くとれない手塚の言葉を受け、跡部は手塚に別れを告げた。
 
 
 
 
 
 
2005.10.15  (背景画像 zeppet 様)
(※ 塚跡ベースではありません)
/ N E X T /

 
 
 
 
 
 
 
 
 
「なぁ跡部、質問ええ?」
「――んだよ」
「『はぴば文』ちゅうたら、誕生祝やろ?誰の誕生日や?」
「てめぇだろ」
「・・・・・俺、何処に居るん?」
「氷帝じゃねぇか?」
「跡部さーん?」
「・・・・・うるせぇ。次は出番あんだろ。―――――
多分な
「多分?自分、今多分言うたやろ?」
「・・・・(ちっ)・・・・空耳だ」
「嘘や〜っ!舌打ちしよったで!やり直し!やり直しを要求したる〜っ!!」
「ふん。て・め・ぇ・が、『本気』 出したら相手してやってもいいぜ」
「―――――お。綺麗なお星様やなぁ」
「今日は雨だろ。ば〜か」
 
 
 
 to be continued ・・‥ ?