『HAPPY BIRTHDAY!!』
ぽんぽんっ!と、軽やかな音を立ててクラッカーが鳴った。
「おめでとー」
「宍戸さんっ!誕生日おめでとうございますっ!!」
「おう、ありがとよ」
仲間達に囲まれて、常日頃はあまり素直ではない宍戸も、この時ばかりは表情を綻ばせる。
放課後の部室内の一角で、引退組と現役組が久方ぶりに顔を合わせた。
コート整備の為、早い時間で活動が切り上げられた為、どこかの店へと移動という話を取り止め部室へ集まる事としたのだ。
中央には15本の蝋燭を立てられたケーキ。蝋燭の火はふきかけた宍戸の息によってすでに消えている。
「はやく食おーぜっ!俺、腹減っちまった!」
「・・・・・・向日先輩。主役を無視して先に食べないで下さい」
待ち切れないとでもいうように、ケーキの端に飾られたクリームを指で舐めとる岳人を、日吉が呆れたような口調でたしなめる。かつては衝突しがちな二人であったが、ダブルスを組んで以来、その関係はかなり改善されていた。まぁどちらかといえば、日吉が受け入れの度合いを広めたというところだが。
「このままじゃ、切る前に齧りつかれそうだね。さっさと取分けようか」
ひょいと手を延ばしてケーキの皿を取り上げた滝がそう宣言すると、その後を樺地が取分け用の小皿を持って従っていった。
手早く切り分けを済ませた滝が、思い思いの位置に座りこんだ皆の前にケーキの皿を置いていく。――だが、その数は何故だか一枚足りない。
「なー滝、宍戸の分は?」
「ないよ」
「あーそ。って、ええー?!」
「何や、今日の主役やろ?」
「うんそうなんだけどね。跡部が、『宍戸の奴に食わせるケーキなんざねぇ』、だってさ」
「はぁ?あの王様は何言うとんねん」
爽やかに言い切る滝もどうかというところだが、問題は発言者にこそあるべきだろう。その話題の主の跡部はといえば、涼しい顔で紅茶を口に含んでいた。
「おい!跡部っ!!」
「何か用か」
「『何か用か』じゃ、ねーだろうがっ!てめーまだ根にもっていやがんな?!」
「てめーが自ら言った事の筈だが?」
「んなの、ガキの頃の話だろーがっ!」
ある意味いつもの掛け合い的口論が、跡部と宍戸の二人の間で引き起こされた。
「・・・・・・何があったんでしょうか」
「跡部って俺様だけど、そんなに理不尽な事言う奴じゃないよね」
「宍戸が何かやらかしたんやろ。跡部の王様ぶりに負けへん墓穴キングやし」
「宍戸さんはっ!それはちょっと抜けた所もありますし、時折大ポカをやったりしますけど!そ、そんな底なしの大ボケなんかじゃありませんっ!」
「――や、俺はそこまで言うてへんで?」
擁護のつもりがそれこそ墓穴堀りとなっている鳳を忍足がどうどうと宥める。
言えば言う程、訴えれば訴える程、語れば語る程、余計にドツボに入っていくあたりが鳳らしいと言えようか。
そんな二人に構わず他の面々は、原因に心当たりがありそうな一人の人物へと期待の目を向けた。
「・・・・んーとね、亮ちゃんが昔、言っちゃったんだよねー」
「言ったって何を?」
「あとべがねー、けーき作ってくれたんだけどー、それ頑張って全部食べた後に、『――二度と食わねぇ』って言っちゃったんだ〜」
「うわ」
「そないな事、言うたんかい」
「―――宍戸さん」
「激ダサじゃんよー」
「・・・・・ウス」
「・・・・大概あの人も考え無しですね・・・・」
「うーん、でもー亮ちゃんを責められないと思うC〜。あとべが作ったの、よく練ったチョコレートケーキなんだけどねー、亮ちゃんそれ全部食べて、病院行く羽目にあったんだC〜」
「ち、ちょぉ待てや。なぁジロー、跡部がそのケーキ作ったん、いつ頃の話やねん」
「えー?10年ぐらい、前じゃないかな〜」
「・・・・・それ、本当に食べ物、だった?」
「あはは〜。亮ちゃんは全部食べたよ〜」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
へらっと笑うジローの言葉に、皆何とも言えないような表情となる。
確かに現在の跡部はオールマイティ。菓子作りすらも完璧な腕前だ。
だがしかし。
齢4歳かそこらの折の跡部はどうだっただろうか・・・・・・・?
ほぼ全員の脳裏に、天使の如く愛らしい笑みを満面に浮かべながら、泥でこねたケーキ(跡部主張)を宍戸に差し出す光景が浮かんだ。
男だ宍戸・・・・・・!
この瞬間、宍戸本人がけして望んだものではないのだが、皆の尊敬を一身に受ける事となったのだった。
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