026.尻尾   ※バトテニ (跡部)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
※ バトロワパロの為人死に話が絡みますので御注意下さい

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 この国に生まれ落ちたからには覚悟しておかねばならない事がある。
 望むとも望まざるとも、巻き込まれる――という事をだ。
 
 悪名高きBR法。
 この法律によって、無数の若い命が実験という名の元に散っていく。
 
 
「―――ち。アクセス不能か」
 
 ぴっと鳴り響く警告音と共に画面にエラーメッセージが出る。跡部は舌打ちを吐きながら回線を落とした。
 追跡などされぬよう何重にもフィルタをかけ、足が付かぬよう複雑な経路を経てやっと入り込んだ回線であるが、跡部の求める情報まで辿りつくにはまだ何重にも鍵がかかっていた。 素質はあれども専門ではなく、また中学生でしかない身ではそれこそ驚嘆すべき事であるのだが、当人からすれば力不足が腹立たしい所である。
 結局得られた情報といえば、今までに聞いた事とそう大差はない。目新しい情報はなかった。 絶対的なファシズム国家である国に対抗する反政府運動が起こしてきた世間一般のニュースには上がらない、小さな【テロ事件】その概要を幾つか知り得るに留まった。
 どの程度の規模の組織が、どのような勢力をもって、どこまで政府にダメージを与えているのか‥‥巧妙に操作された情報の中では掴み取る事ができない。 だが、恐らくは、期待するのも無駄なのだ。組織といっても国を二部するような大掛かりなものではなく、どう多く見繕っても散文的に発生したゲリラ活動にしか見えない。
 バトロワ法が施行されて5年。独裁的な政府は何処かに綻びを抱えているのだろうが、それは表だっては現れていない。 そして総統という名の下に、絶対的な権力を握る独裁者である男は、未だその身も頑健で病の兆しすら見えない。
 反政府組織(――と言い切るにはどれもこれも小規模でありすぎるのだが)らは、バトロワ法をひとつのターゲットとしてその実験を取り潰す事で彼らの力を世に知らしめようとした事が何度かあったようだ。その結果といえば―――芳しいとはいえない。未だに日本各地で定期的に施行されるバトルロワイヤルがその結果を表しているといえよう。
 実験場に乗り込んで、生徒達を救出しようとした事もあったようだ。だが、完全監視の下で行われるバトルロワイヤルの会場から、簡単に救出などできる筈もない。恐らくは情報が前もって漏れていたのだろうが(組織の中には当然政府のスパイも入り込んでいたのだろう)、彼らは生徒達ともども‥‥政府軍によって行われた絨毯爆撃により殲滅された。
 
「どいつもこいつも使えねぇな」
 
 暗い瞳で吐き捨てるように言う様は、普段の跡部からは見知る事のできない顔だ。跡部財閥という国内有数の名門の家に生まれ、テニスの才能に溢れ、氷帝学園という名門校に君臨する帝王である彼は、常に自信に満ち溢れ、生気に満ちたオーラで他者を圧倒している。
 何も見ずに、何も聞かずに、何も言わずに、何も知らぬ事で通せば‥‥‥表面上は平和そのものだ。政府の意向に逆らいさえしなければ、祖父や父の深謀遠慮によって古くからかなりの献金を政府に貢いで来た事もあり、また常に今の政府を率先して支持してきた事もあり、跡部家は今の所安泰である。だが、それがそのまま彼らの本音である筈もなかった。
 どれ程優遇されようとも、厚遇されようとも、そんなものは一昼夜にて一転する。それが今のこの国の在り方だ。そして祖父も父も、媚諂うように膝を折り、その瞳に恭順の意思を示していようとも‥‥その魂が決して屈していない事を息子であり、孫である跡部は知っている。
 政府に尻尾を振りながら、裏でひっそりと海外での足場も固めていた。跡部は生粋の日本人ではない。そのルーツの一部は英国にある。 それが故に余計な目を付けられるのを防ぐ為、祖父も父も腐心しているのだ。そして母も‥‥・・お国の為と犠牲になった彼女は物言わぬ――すでに生前の原型を止めぬ――身にて沈黙のままに戻り、変わりに得たのは‥‥総統から与えられた小さな勲章だった。
 反政府メンバー達には横の繋がりがない。断絶されていると言える。 それだけまだ政府の力が圧倒的で、また国民達それぞれが監視者ともなっている現状では、密告者が後を絶たない。反政府的思想を持ち反抗しようとしているゲリラを発見次第通報すればその者の家族はBR法など様々な制約から免除される、というデマが出回っているせいだ。 誰かを陥れる事で自分の身の安泰を図る――浅ましい事ではあるが、それを誰が非難できようか。抵抗する力を持たない一般市民が、せめて家族だけは守ろうとして必死になっている姿がそこにある。例えそれが誤った選択だとしても。
 テロ行為を行う自称反政府組織のメンバー達にした所で、何処が違うというのか。彼らは人道的立場から考えてこの国の在り方は間違っていると高らかに叫ぶ。未来ある若者達の命をあたら散らしてはならないのだと、BR法を壊滅させよ!と檄を飛ばす事もあった。その考えは間違いではないと思う。だが。
 
「考えなしばかりかよ」
 
 跡部の前にはバトルロワイヤルの生き残りの生徒を連れ出そうとした事件の顛末を書かれた資料があった。その時の会場は周囲を海に囲まれた島であり、ひっそりと小船を島に付け、ゲームの終了を見届けたタイミングにより連れ出そうとしたらしい。しかし、救出する寸前で政府に気づかれた事を察知した彼らは、生き残りの生徒を置いたまま逃走した。 その結果、ゲームの生き残りはゼロ、となる。島を逃げだそうとした生徒は政府に叛意有と判断され、処断された。
 殺し合いのゲームを生き抜いたというのに‥・・最後の最後でその生徒は生き残る道を閉ざされた。何を救おうというのか。一人の命よりも、組織が在る事こそが大事という事か。一度の失敗は次で取り返せば良いという事か。何と不確かな、頼りない紐を希望としてそいつは掴もうとしたのだろうか。それは単なる蜥蜴の尻尾でしかなかったというのに。
 
「こいつらにとっても、やり直しの効くゲームって事か」
 
 はっと嘲るような笑みが跡部の口元に浮かぶ。
 大人達は、子供達を駒とした遊戯で戯れている。そこに存在する命など、点滅するライト同様軽くスイッチ一つで点けも消しもできるのだ。
 
「一年」
 
 ぎりと腕に唇を当て、いつしか噛み締めていた。白い肌に噛み付いた跡が付き、血が滲み出すのも気づかずに。
 夜が明ければ跡部は一学年を進級し、氷帝学園中等部の三年生となる。BR法における、算出対象の学年だ。
 
 一年、耳を塞いで過ごすか。
 一年、思考を封じて過ごすか。
 
 誰より大事な仲間達に危害が及ばぬのならば、それでも良いと跡部は思っていた。
 
 
「―――はっ!俺こそ檄ダサ、か」
 
 思わず、幼少組の頃から共に在るチームメイトの口癖が口をついていた。
 帝王と呼ばれ、200名もの部員達を率い導く跡部であるが、結局はただの一中学生である。
 幾ら考えても答えの出ぬ迷いの中で、跡部は夜明けを迎えようとしていた。
 
 
 
 
 
 
[ 2005.11.05 ]