240: 徹夜    ※ バトテニ  (氷帝)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
※ バトロワパロの為人死に話が絡みますので御注意下さい

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「―――――」
 体が重い。
 意識はしっかり、冴えすぎているといのに、重すぎる体が言う事をきかない。
 フルセットマッチをこなしたとしても、これ程の疲労は感じなかった。とにかく腕が重くて、足が重くて、底なし沼にずぶずぶとはまり込んでいくような感覚だった。
 
「――――ちょう」
「・・・・・・・・・・・・・」
「――とべ、部長」
「――――日吉?」
 
 体を軽く揺すられ、静かな声で囁かれて、意識が急速に覚睡していく。眠っている自覚など無かったが(そもそも無いものかもしれないが)僅かに眠りこんでいたようだ。 意識は確かに起きていた筈であるから、半覚睡の状態だったのだろう。
 ゆるゆると重い瞼を開くと、暗い面持ちでこちらを覗き込んでいる後輩の顔が間近にあった。
 怒りを抑えているような、哀しみを堪えているような、憤りを持て余しているような、痛みをやり過ごしているような、苦しみをねじ伏せているような、だが静かに感情を押さえ込もうとしている冷えた瞳。こんな目をする奴だったか?と日吉に対し新たな発見をする。
 
「申し訳ありません。お休みの所。僅かでも眠りを取って頂きたいのは山々なのですが」
「・・・・あーん?悠長に寝てる場合じゃ、ねぇだろ」
「3日間の短期決戦とはいえ、不眠不休では無理ですよ。ですが、そろそろ、放送の時間ですので」
「―――あれか」
「・・・・・・・・・・・・・」
 
 跡部の言葉に日吉が小さく頷く。何を指し示しているのかは、通じていた。
 氷帝学園には、政府に関わりがある親を持つ子供も少なくない。また、都内でも指折りの資産家が多く通う学園である故に、何やかやと情報源にも事欠かない。
『BR法』に関わる事も、―――本来ならば関係者筋の他には門外不出であるのだが、それこそ蛇の道は蛇というもので―――それなりに予備知識を集める事のできる環境だった。 だから、目覚めてすぐに自分達の国に付けられた首輪が何を意味するのか即座に理解したし、『教師』の言葉に反論も反抗もしなかった。
 それがいかに無駄である事なのか、わざわざ自分の命を、または友の命を縮めるだけに他ならない事を知っていた。 そして、一定時間ごとに『教師』によってもたらされる放送による情報公開が、それまでに死んだ者の名を発表するのだ。
 更にはその放送によって、『危険区域』が増加し行動範囲が狭められる為に、『放送』を聞き逃す事と『地図』を無くす事は生存確率を下げる事だとも理解していた。
 
 
 
 
 ジジ、と雑音の混じった音が各所に仕掛けられたスピーカーより聞こえてきた。
 
「――あ〜、あ〜・・・・・・いまひとつ調子が良くないね。ったく、経費ケチってんじゃないかい?・・・・・・さて、清清しい朝となったが、皆は良く眠れたか? ―――なんて聞きはしたが本当に寝ちゃいないだろうね?こっちは完全徹夜で掛かりっきりだってのに、そりゃ腹立たしいっちゃない。 そんな図太い神経を・・・・・・もってるかもしれないか。うちの部員達もそうだけど、生半可な肝の座りようじゃないし。全くテニスは本来優雅なスポーツだと思っていたがねぇ・・・・・・ま、とにかくお役目を果たすとしようか」
 
 
 
 聞き覚えのある声がしゃきしゃきとした喋りでスピーカーから流れてくる。
 どうやら向こうは昨晩寝てないらしい。それに対する恨み言をこちらに向けられても困るのだが。
 
 
 
 
「それじゃ、さっさといくよ。脱落者、『ゼロ』」
 
 
 
「――驚いたね。今までに無かったデータだよ。 一日が過ぎてただの一人も脱落者がいないとは。さすがはお上品な氷帝学園の生徒達という所かね。 だけど勘違いはしていないかい?お前達が幾ら良家の子息であろうと、ここでは一切関係ない。生き残りをかけたゲームなんだからね。ああそういえば氷帝には『下克上』が口癖の奴が居たな。そう、下克上なんだよ。今まで目の上のタンコブだったレギュラー陣を消してしまいたいと思った事はないのかい?ふふふ。こういう場では秘めたる暗い感情が吹き出すものなのさ。存分に戦いあいな。殺し合いな。お前達はそれが許される場所に居るんだ。それにしても、一人もというのはねぇ。何しろ200名もの大所帯。高率良くいかないと時間切れになっちまうじゃないか。それじゃぁつまらないだろう?よし。私が手伝ってうやろう。今から予告以外の場所を緊急禁止区域とする。意味はわかるな?指定された地域は爆破する。そこに居た奴は・・・・ま、運が無かったね。―――ではまずA-6
 
 その言葉と同時に爆音が鳴り響いた。
 
 
「次。D-3D-4・・・・それからG-7
 
 再び盛大な火花が天へと立ち上ぼる。
 
 
「手始めはこんなものさね。さて、どれだけ整理できたか?・・・・・・ふむ。丁度良い。今回の処理で20名程淘汰できた。今回死んだ者達の名は、次回の放送時にまとめて上げさせて貰う。さて、これで本気という事がわかっただろう?これは冗談でも冷やかしでもない。れっきとした殺人遊戯だ。殺さなければ殺される。それをよく噛み締めて理解するんだ。ああ、何て親切なんだろうね、アタシャ。ま、何度か手を合わせたよしみって奴さ。こっから先は甘い対応は無いと思っとくれ。 さて、次のカウント時にもしこれまで通り脱落者無しという結果であったら・・・・今回の倍は処理しないといけないかね。 その中にはお前さん達の大好きな『部長さん』が入るかもしれないな。今はまだ生存は確認されているが。こちらとしても彼には期待している。他には例の無いカリスマ性を持った彼が此処をどう生き延びるのか・・・・。ま、英雄だってたった一人の雑兵に倒される事もある。どうなるかなんてわかった事じゃないがね。そんな風にあっさり死んでは欲しくないものだが。やれやれ喋りが過ぎたようだ。あまり年寄りの手を煩わせないどくれ。それじゃぁ―――Good Luck!
 
 
 ぶつり、と音声が切れた。
 
 しん、と静寂が再び支配する。
 じわじわと染み込んでくる事実。
 
 
 爆発。
 それによって散った20の命。
 かつて支えあい、競い合った仲間達。
 もしくは、憧憬を持って見つめてきた人達。
 誰かが、あの爆破によって死んでいった。
 
 
 
 
「―――ひょーていっっ!」
 
 何処かの茂みから、張り上げるような声が上がる。
 
「氷〜帝っ!!」
「氷帝っ!氷帝っ!」
「氷帝っ!」
「氷帝っ!!!氷〜帝っ!!」
 
 
 唱和するかのように、そこかしこから掛け声が上がった。
 無数の声が重なりあって、彼らの誇りの元であった学名を叫ぶ。
 それは、心崩れた一人が自棄になって張り上げたようなものではない。 決戦の場において、彼らの心酔する先導者に自らの情熱の全てを捧げ尽くすような、熱狂的な掛け声だった。
 自分達の居る場所を知らせる事になるとは、誰も考えていない。ただ心の赴くままに、声を張り上げて、咽が枯れんばかりに叫んだ。
 
 
氷帝っ!
氷帝っ!
 
氷帝っ!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 その時間は無限とも思えたが、ほんの僅かな時間であった。
 誰が最初に叫び出したのかはわからない。それを突き詰めるのは無意味であろう。
 
 かつて、味方を鼓舞し、敵を圧倒してきた氷帝コールは、始まりと一緒で、唐突に途絶えた。
 
 
 そして再び森の中に静寂が戻る。
 
 
 
 
 
 ――――これこそが、始まりの合図だった。
 
 
 
 
 
[ 2005.10.23 ]