※ バトロワパロの為人死に話が絡みますので御注意下さい
ガタガタと揺れるバス。少し離れた位置で騒ぐ声が聞こえる。
遠足気分なのだろう。そして数組は仲間同士との会話もなく静かに座っている。
2台のバスは連なって林道を抜けていった。
窓際の席を開け、通路側へと腰掛けた跡部は長い足を組んで悠然と構えていた。緩やかな振動も眠気は誘わない。手荷物に紛らせた洋書のペーパーブックは隣の席に放ったままだ。少し前までは後ろの席から覗き込むようにして越前が声をかけてきたが跡部の気の乗い返事に相手をして貰うのを諦めたようだ。
まあ、車内には青学の連中が揃っている。暇潰しの相手には事欠かぬようだが。
「―――」
ふと、視線を下に向けると真っ白な卸し立てのようなズボンが視界に入った。
足下も汚れ一つない真新しい靴。
予測するまでもなく顔を上げれば千石が締まり内顔でにいぃと笑っていた。
「久し振り〜跡部くん!会いたかったよっ!」
「俺は別に会いたかねぇが」
「うわっ!相変わらずのつれなさっ!跡部くんだな〜」
「―――」
何が楽しいのかにへっと笑みがますます深くなる。
「全然連絡取れないしさー。も、跡部くん欠乏症?」
「うぜぇな。てめぇの座席に戻れ」
「いやーあっちじゃ真田くんとか全然相手してくんないし」
キヨちゃん寂しいの〜と泣き真似までみせてくる。
「俺だって相手する気なんざねぇよ」
「あはは〜君と僕の仲じゃないか」
「どんな仲だって?あぁ?」
「キヨちゃん景ちゃんの仲」
「――――張っ倒すぞ、てめぇ。バスから放り投げてやろうか?あーん?」
「わー勘弁!跡部くん見掛けに寄らず馬鹿力なんだもん。洒落になんないよ〜」
「鍛えてんだ。ったりめーだろうが、ばーか」
小馬鹿にしきった笑み浮かべながらじゃれようと伸びてきた手を振り払う。
うざってぇな、と思いつつその気もないのに先程の越前とより会話が成り立っている事に気付く。千石という存在に慣れてしまっているせいだろう。
「あ、跡部くん、お菓子食べる?いろいろ持ってきたんだ。こういうスナック菓子、あまり食べた事ないでしょ?」
「落ち着かねぇ奴だな。こぼれんだろ、菓子屑が」
「大丈夫!気をつけるから!」
「って言ったそばからぶちまけてんじゃねぇか!新品の靴が泣くぜ?」
「あ〜うん。でもまあ靴なんて汚れるものだし」
「ほぉ?前に履いてた奴はお気に入りで10店はしごしてようやく手に入れたっつってなかったか?」
「――覚えていたんだ」
「あれだけ聞かされりゃあな。飽きたのか?」
「いや。・・・・汚れちゃってね。使い物にならくなっちゃった」
「・・・・・・」
気に入ってたんだけどねーと笑う千石の笑みは二重写しなように見えた。ぶれて重なりあっているような違和感。
「―――まあ仕方ないよね〜駄目になっちゃった物は〜。あ、そろそろカーブにかかるのか。座っていた方がいいね。バスの中でこけたら跡部くんに笑われちゃうか〜」
「―――」
「え?呼んだ」
離れようとした千石を呼び止めたのは気紛れだった。そしてこれもほんのちょっとした気紛れだ。
「こっちに座りな、『
キヨ』」
「・・・・・・・・・・」
驚きに目が見開かれる。ぽかんと口を開けたまさに間抜け面だ。
隣に放った本をどかし、立ち上がって惚けたままの千石の腕を引き隣に押し込んだ。再び跡部が座りこんだ時、ちょうどぐい差し掛かったカーブが遠心力を発生させ、千石の肩に一瞬寄りかかった。
ほんのわずかな接触。それだけの事にびくりと千石の体が跳ねあがる。
「あ、跡部くん、?」
「ってぇ面してんだよ」
「さっ、さっきの」
「ああ?『
キヨ』?」
「うわっ!やめて!頼みますっ!すっげぇ心臓に悪い・・・・」
「はん。覿面だな。南の言った通りだ」
「南?え?なんで??」
「――前にな。お前があまり騒ぐようなら名前でも呼ぶといいとアドバイスを貰った」
「南の奴〜俺を殺す気?心臓爆発しそう」
「ヤワな心臓だな」
「跡部くんだからだよっ!あーもうっ!本気で心臓止まるかと思った。・・・・南の奴に文句言ってやらないと」
「そーかよ」
「――えーと。それで俺、ここ座っていても良いのでしょうか・・?」
「いーんじゃねぇ?嫌なら席立てよ」
「そ、そんな事ありませんっ!うわー特等席〜っ♪」
「・・・・・・ばーか」
はしゃぐ千石の額を拳で軽く叩く。これも、気紛れ。ほんの少しの、気紛れ。
一瞬呆けたような表情をした千石は、ついで鮮やかとしか言いようがない笑みで破顔した。
それはとても幸福そうな笑みで―――
跡部をして「んな顔すんじゃねーよ」と思わずにはいられない類の。
ふいと足元へと目を向けると真新しい靴が見える。
汚れずには、すまないだろう。
跡部は千石から自分の顔が見えぬよう、ゆっくりと反対側へと顔を背けた。
[ 2005.10.18 ]