子供の休日



 偶然の結果でしかないのだが。テニス部三年生の内、中心人物達の誕生日は、ある一時期に集中していた。 9月中旬に生まれた向日の誕生日を筆頭に、宍戸、跡部、忍足、滝――と続くわけである。
 実力主義である氷帝テニス部は、敗北すれば即レギュラー落ちという厳しい環境でありながら、これで不思議とメンバー達の仲が良い。 当然の流れとでもいうか、彼らは仲間達の誕生日を祝うのが通例となっている。
 そんな折。誕生日ラッシュもトリとなる滝の誕生会においての事だった。
 
 
 
「これで締めってのも味気なくね?」
「せやな。オモロイ事は続けたいもんや」
 切り分けたケーキの最後の欠片を頬張りながら、岳人がそんな事を言う。そこへペアを組んできた付き合いからか、横から忍足までが口を挟んできた。
「‥‥‥てめぇら‥‥散々騒ぎまくっただろうが。馬鹿騒ぎがようやく終わってほっとした所だっつのに」
「あれ?跡部は俺の誕生日をそんな気分で参加してたんだ」
「――んな事言ってねぇだろ。萩之介、揚げ足とんなよ」
 氷帝テニス部をまとめてきた厳格な部長の顔で二人を諌める跡部だったが、その言葉の端を滝に取られて「しまった」という具合に顔を顰める。 穏やかに微笑みながら毒を盛る――滝はなるべく怒らせてはならない人物であった。 (最もこの時は岳人達の援護射撃のようなもので、跡部の言葉に本気でひっかかっていたわけではない)
「部活引退して暇でサ。騒げる場は歓迎なんだよな〜」
「んな事ばっか言ってっから追試になんだよ、てめぇは。内部進学だからって舐めてんじゃねぇぞ?」
「そ、それとこれとは別だろっ!き、期末はばっちりだゼ」
「ほぉ。その言葉忘れんなよ。俺様の前で宣言したからにはきっちり果たせるんだろうなぁ?」
「―――――――――――――――侑士。よろしくなっ!
「俺かいっ!」
「ま、何でもいいけどよ。次は決めろよ。高等部は今程甘くねぇんだぜ。なぁ樺地」
「ウス」
「でも岳人の言う事もわかるC〜!跡部、俺ももっと遊びたいよ?」
「お前はいつも寝てばかりだろうが。こんな時ばかり起きてやがって」
「でもジローさんは、成績もそう悪くないですよね。勘が良いのかな?」
「‥‥‥素地は良いからな。直前に俺が叩き込んでやってんだよ。ったく、普段の授業聞いてりゃ問題ねぇだろうが」
「跡部かて、授業真面目に聞いとったか?」
「益になる物は聞いてる。殆どは教科書一回目ぇ通せば済むような内容ばかりだがな。教師の癖にまともに検証してやがらねぇし」
 つまりは大半は聞く価値などないと言い切っているようなものだった。 落ちこぼれではないものの、真面目に授業に受けていながら時折遅れがち‥それでも何とか付いていっている宍戸にすると盛大な嫌味である。
「てめぇ、腹の底から嫌な奴だよな」
「そーか。褒めてくれてありがとよ」
「褒めてねぇっ!」
「で、その嫌な奴にてめぇらは始終引っ付いて回ってるのか?」
「―――べ、別にてめぇに引っ付いてるわけじゃねぇっ!忍足達と遊ぶ時、跡部一人仲間外れじゃ寂しいだろうと思ってなぁ、誘ってやってるだけだっ!」
「ほーそーか。ありがとよ。だが次からはわざわざ誘ってくれなくてもいいぜ?俺様は一人で充分有意義に過ごせるからな」
「―――――っ」
 すっぱり言い切る跡部の言葉に宍戸が押し黙る。
「宍戸さん。ここは素直になった方が良いですよ。跡部さんと遊びたいんだって正直に言ったらどうですか?」
「ち、長太郎!てめぇ馬鹿言ってんじゃねぇよっ!」
「宍戸は天邪鬼やからな〜。そないに言うと益々意固地になるやろ?宍戸もな、意地ばっか張っとると跡部に相手されんようになるで?」
 フォローだかトドメだかわからぬ一撃を忍足が放つ。ただ単に便乗してからかっているだけかもしれないあたり、氷帝の曲者健在であった。
「ま、いつもの事だけどね。それで向日は何か案があるの?」
「ああ!話逸れちまったけど、引き戻してくれてありがとなっ!やっぱ滝は頼りになるぜ!」
「あはは。光栄です」
「カレンダー見てたら、明後日いい騒ぎのネタがある事に気づいたんだぜ!」
「それって『万聖節』の前夜祭の事ですか?」
「『Halloween』、かよ」
 岳人の言葉に反応した跡部と日吉の声が被る。
「跡部はともかく日吉、よく知ってたね?あまり一般的なお祭りじゃないと思うけど」
「―――ケルト神話などにも興味があるので‥」
「へぇ。和物だけやないんやな」
「‥‥‥和物?」
 忍足の言葉に跡部が首を傾げる。父親が師範を務めている古武術の絡みだろうか、との疑問がその顔には表れていた。
「そうじゃないよ、跡部。日吉が好む読書系統ってほら、『学校怪談系』だから」
「そうなのか?」
「ええ。まぁ」
「ふーん」
「‥‥‥‥‥‥」
 いかにも興味ありません、というような相槌に日吉の表情が複雑そうに歪む。からかわれるのは嫌いだが、素無視されるのも面白くない――という微妙な男心だろうか。 最も跡部にすればテニスに関わりない個人的趣味その他など、全く興味を持てぬだけなのだが。
「しかし『Halloween party』っつったら、仮装したガキが大人を脅かして『Trick or treat!』とかやる奴だろ?」
「そう。それでお菓子をねだるんだよね」
「確かにどんちゃん騒ぎだろうけどよ」
「跡部はやらなかったの?お姫様とか似合いそうだったのに〜」
「姫はねぇだろ。せめて王子にしろよ。どっちにしろ、『Halloween』絡みの祭りはやってねぇな」
「そうなのか?お前、どっか海外行ってただろ?」
「英国だ」
「そう。それ。向こうってこっちよかそーいうの派手そうじゃねぇ?」
「馬鹿騒ぎはあったけどな。11月5日に」
「万聖節が11月1日で、――跡部先輩、5日には何が?」
「『Guy Fawkes Night 』だ。花火使ったりとかなり派手だぜ」
「具体的には何するん?打ち上げ花火やないやろ?」
「日本の祭りと一緒にすんなよ。起源は、国王の暗殺を謀った首謀者達を処刑した事に発するらしいが」
「うわ。えげつねー。英国ってそーいう所あるよな。さすが跡部の第2の故郷って事か?」
「喧嘩売ってんのかよ、宍戸」
「はっ。幾らで買うって?」
「けってめぇの喧嘩なんざ1ペニーも払えっかよ」
「何でペニー?」
 いきなり出てきた海外通貨の単位に滝が疑問の声を挟んだ。
「話の流れだ。向こうじゃ11月5日になるとな、暗殺事件の首謀者とされていた『ガイ・フォークス』を模した人形使って大人に貨幣をねだったりすんだよ。ま、このガイってのは実は犯人でも何でもなくて全く関係ない奴だった‥ってぇ話もあるみたいだがな」
「人形はその後どうするんですか?暗殺事件なんて物騒ですけど、そういう謂れのある人形を大事に取っておいたりとかはしませんよね?」
「火付けて、焼き捨てんだよ」
「‥‥‥‥‥‥」
「長太郎、そこで固まんなよ。お前が聞いた事だろうか」
「あ、す、すみません、宍戸さん」
「ま、でかい篝火炊いたり、花火あげたりと結構盛大だったぜ?」
「それ、面白そうだC〜♪」
「だなっ!パーティやって最後は人形焼いて騒ごうぜっ!」
「――おい」
 元気者(ジローの場合は目が覚めさえすれば岳人なみのハイテンションである)の二人が騒ぎ出し、跡部に詰め寄っていく。 それを跡部は渋面で諌めようとするが、すっかりその気になった二人が聞耳を持つ筈もない。 ついでながら、ジローにはどうしても甘い跡部であるので他の奴に対する程にはきつくも叱れないのだった。そんな跡部の隙を見逃す氷帝メンバーではない。 鉄は熱い内に打て!ならぬ跡部は緩んだ隙に攻めろ!というのも彼らに共通する鉄則でもあった。
「そうだね。誰かの誕生日とか関係ないどんちゃん騒ぎっていうのもたまにはいいかも」
「テニス部離れてもこないつるんで、俺ら仲良し氷帝っ子やな〜」
 跡部が立ち直る前にと畳み掛けるように滝と忍足が茶々を入れ、そこに更には少々申し訳なさそうに大きな体を少し丸めて鳳が挙手をした。
「あの。俺達も参加させて頂けるのでしょうか?」
「‥‥‥‥‥‥」
「俺は、別に」
「馬―鹿。いいに決まってんだろ!お前達いなけりゃ話になんねーだろーがっ!」
「宍戸さん。‥‥有り難うございます。よ、良かったな!樺地!日吉!」
「ウス」
「‥‥‥だから、俺は別に‥‥」
 人の良い鳳は自分の事よりも、あまり己の意思を言葉にしない寡黙な樺地や捻くれ者の日吉の気持ちを思いやって喜んでいる。 少し怒ったような(実は照れているのだが)顔でぷいとそっぽを向く日吉はともかく、大事にしている後輩の樺地が微妙に嬉しそうに答える姿を見てしまっては、不本意ながらも 跡部としてはもうこの流れに乗るしかない。
 
 
 
「―――で?決定っつーわけか?」
「「「「「勿論」」」」」
 
 綺麗に揃って唱和の返事。てめぇら実は裏で図ってたんじゃねーのか?あーん?と跡部は疑いを抱く。
 
「‥‥‥‥‥‥場所は?」
「「「「「跡部の家」」」」」
 
 これまた素晴らしいハーモニー。綺麗に綺麗に揃ったお返事である。しかも迷いすらなく瞬時の回答。
「‥‥‥‥‥‥わかった」
 
 何勝手言いやがる、俺様が聞くとでも思ってんのか?てめぇらふざけてんじゃねーよ!と悪態をつきたくもなるが‥‥ここまで結束した連中相手に逆らうだけ無駄とも言える。
 全く頭痛がする程のチームワークぶりだ。青学の連中にも勝るとも劣らない勝手ぶりといい、実は自分はこの中では一番の常識人なのではないだろうか‥?と近頃自分が彼らの保護者なんどえはないかと思えてしまう跡部はついついそんな風にも考えてしまう。
 跡部の了承を得て、ほぼ全員が喜びの歓声を上げた。楽しい事は好きなのは確かだ。だが、そこにはやはり跡部の姿があって欲しいと思うのが、本人には決して言えないけれど(ジローや滝あたりならば照れもなく言い切りそうだが)皆に共通する想いである。流されてだろうと、仕方なくだろうと、一度頷いた跡部はちゃんと愉しむ為に全力を尽くす。遊びにおいても半端を許さないあたりが実に跡部らしい。
 
「―――ふん。了解はしたが、条件はあるぜ?」
「そら、今更やろ?」
「別に無理難題言うつもりはねぇよ。『Halloween party』を盛り上げる一環だ」
「どういう事?」
「まさかうちに集まってただ騒いで終わるつもりじゃねぇだろ?」
「そりゃぁな。それじゃぁいつもと変わんねーし」
「ハロウィーンに関わる事といったらランタンでも作るとかですか?」
「正解だ。まず、『ジャック・オ・ランタン』を一人一個作ってこい」
 鳳の言葉に頷いた跡部は腕を組んで周囲を見回し厳かに言い放つ。
「えーっ!そりゃないぜー!んなの作った事ねーよっ!」
「それってカボチャの提灯だろ?スーパーに売ってるカボチャでいいのか?」
「――いえ。それは止めた方が良いですよ。色合いも違いますし、硬くて彫りにくいと思います」
「ランタンか・・・・樺地は作った事ある?」
「・・・・・・・・ない、です」
「普通は作らへん。材料調達する所から始めなあかん。作り方は日吉が知っとるな?」
「一応」
「それやったらレシピは任せたで。材料は俺が人数分仕入れたるわ。鳳、補助頼むで」
「了解しました」
 テキパキと指示する忍足に皆の目が真剣味を増す。跡部が言い出した条件をクリアしなければ、この話はお流れになるだろう事を皆察していた。
「提灯作る時中身をくり抜くんだよね〜。日吉、カボチャプリンどれぐらい作れる?」
「それも止めた方が。ジャック・オ・ランタンに向いたカボチャというのはあまり食用には向かないんですよ」
「それってつまり不味いって事?」
「有体に言えばそうです」
「何やて?食い物粗末にするんか?そら冒涜やで!」
「だったらくり抜いた中身は全部侑士にやるから食って始末しろよ」
「‥‥‥‥あんま嬉しゅうないな」
 相棒の言葉に忍足の口元がひくつく。日吉の「食用には向かない」という言葉がそれなりにひっかかっているらしい。が、言葉に出してしまった以上取り消しもきかない。 美味とは言い難いカボチャの中身は、この先数日間忍足の腹に納まる事となるのだろう。
「それにしても、あまり時間はありませんよ?中一日しかないんですから」
「そやった!跡部!意地悪いで!」
「うるせぇ。いきなりなのはこっちも同じだ。誰がパーティ準備すると思ってんだ?」
「え?って事は‥‥跡部、お前が?」
「仕方ねぇからな。俺様のパーティ料理に酔わせてやるぜ」
「へぇ。それは楽しみが増えたかも」
「‥‥‥何か、怖いんですが」
「そんな事ないよ〜、日吉ってば跡部の料理の腕前知らないんだ〜美味C〜よ」
「そうなんですか。跡部さんは本当に何でもできる方なんですね」
「‥‥‥あの‥‥お手伝い、を・・・・」
 好き勝手に騒ぎ出した忍足達と違い、跡部に心酔している樺地が一人での準備は大変だろうと思い手伝いを申し出たのだが、跡部はそれをあっさり断った。 「お前は自分の準備に専念しろ」、とにこやかに微笑みを与えつつ。
 
「それと、もう一つの条件だ」
「まだあるんかい!」
 お約束の如く突っ込みを入れるのは忍足である。関西方面出身者が必ずしも芸人体質というわけではないのだが、この面子の場合突っ込める人物が突っ込まないと脱線しまくりボケまくり‥といった状況になるので、やはり忍足には突っ込み役が回ってくるのだった。
「あーん?『Halloween』なんだから、仮装は必須だろ?」
「それって僕等に仮装して跡部の家まで行けって事?」
「そこまで恥曝しな事をしろとは言わねぇよ。ゲストルーム用意しとくから、そこで着替えな。俺様が呼びに行く頃には済ませておけよ」
「‥‥‥跡部部長も意外にノリの良い方ですね」
「馬〜鹿。部長じゃねぇだろ。引き継いでどれだけ立ったと思ってんだ?」
「あ、すみません」
「しゃぁないやろ。跡部程に強烈な部長は居らんし」
「他校にゃ居ると思うがな」
「あはは。跡部ったら謙遜してるね。君が一番だよ」
「‥‥‥‥‥‥‥」
 さらりと滝が言い切る。これがあまりに自然すぎて、跡部以外の者達は心の中で思わず拍手を送っていた。
「仮装って何すりゃいーんだ?」
「演劇部にでも借りにいこか」
「貸衣装という手もありますよ」
「あ、そらええな。手作りしとる暇ないし、衣装の方はそれですまそ」
「じゃぁそっちは俺が物色しておくよ。後で皆のサイズ確認させてね」
「俺も手伝うぜ」
「ありがと。宍戸」
「‥‥‥‥‥‥‥」
 
 あれよという間に事は進んでいく。別に困らせる為に言ったわけではないのだが、跡部としては少々複雑でもあった。彼らにやる気が無いとは言わないが、テニスに向ける情熱よりも大変熱いように見える。
 まぁ遊び盛りの中学生。それも仕方ない事なのかもしれないが‥‥などと考える跡部は思考的にも中学生の範疇から外れかけているのかもしれない。
 ―――と思うのは本人だけで、実は跡部にした所でかなりな遊び心を携えている。この時にしても、パーティ準備を跡部が行うとした時に皆に見えないように顔を逸らした瞬間、跡部が浮かべていた笑みがいかに人の悪い、実に底意地の悪いものであったかという事を、彼らは気づいていない。そして何故跡部が樺地の手伝いを断ったのかという事も。
 
 
 
 
 
 結果的に、『Halloween party』はかなり盛り上がった。
 跡部は完璧に準備をしてくれたし、皆の仮装もかなり笑えた。手間取りはしたがカボチャ提灯も全員分揃える事ができて、照明を消してランタンの灯火だけとした際には中々幻想的な眺めとなったものだ。それに、恐る恐る、といった態で料理を口いした日吉も、一瞬後には目を見開いて思わず「美味しい」と口走ってしまった程に跡部の手料理の数々は美味であったのだ。
 
 ただ。
 所狭しと並べられた跡部特製パーティ料理ハロウィーン仕立てに関しては、それを見た瞬間、皆を硬直させたのも確かであった。道理であっさり了承した筈だよ、とそれなりに長い付き合い故に本質的な意味では跡部の事をよく理解している宍戸は大きく納得したものだった。
 何しろ命名からして「血塗れ」やら「呪い」やら「殺戮」やら「生贄」やら何やかや。 全てにおいてハイセンス(跡部主張)な命名の一品一品が命名のみならず外観もまた無駄に凝りまくったものばかりで・・・・「処女の皮剥ぎ」なんたる料理が出てきた際にはさすがの滝の微笑みすら凝り固まった程であった。(ただし味はどれも美味だった)。
 骨の形をしたものとか、目玉を象ったものとか、血塗れは基本で全てにおいてホラー仕立て。さすがは跡部、ともう呆れを通り越し、次は一体何が出てくるのか?!と皆は期待と恐怖にどきどきと胸を高らせたのだった。
 もともと騒ぐのが大好きなメンバーのみならず、跡部もまた腹を抱えて笑い、年齢相応に表情を崩して笑いあった。そんな跡部を見て、仲間達は更に楽しいと思う。 夜を徹し、騒ぎ疲れて寝入ってしまうまで、パーティは続いたのだった。
 
 
 
 ハロウィーンとはお祭りだ。子供達が楽しく過ごす為のお休みの日である。そして跡部達は幾ら大人びているといっても――まだまだ子供なのだ。
 
 
 
 
 
 
 ―END―
 
 


(2005/10/22)
1111を踏んで頂いたY様に捧げます
リクエスト [ 跡部中心でハローウィン ]



/ C L O S E /