剥き出しになった肌の上を掠める風は、昼間の暑気が嘘のように涼しい。
火照った肌は薄っすらと汗を掻き、時折吹いてくる風邪が心地良かった。
銭湯で汗と垢を洗い流した氷帝メンバー達は、そのまま別れて帰路に着くわけではなく、ごく自然と近くの公園へと足を向けていた。
銭湯に移動する際に横目に見ていた公園の事を、それぞれ記憶の片隅にとどめていたらしい。誰が否定するわけでもなく、自然な流れで彼等の足はそこへと向かった。
「あーっ!気持ちいーっ!!」
すでに陽は翳り、星々が瞬く空へと手を延ばし、向日が全身を伸ばすようにして伸びをした。そのままぴょんと、手渡りに飛びついてひょいひょい先へと進んでいった。
宍戸と鳳はブランコの前の柵に腰掛けて並んで何やら話しこんでいる。滝はといえば、いつの間にやらジャングルジムの上に上り、頂上で眠りこけているジローに向かい「危ないから降りておいで」と声をかけている。忍足は何やら動物型の揺れる椅子の上に乗っかり妙に嬉しそうだ。その頭の中でいかなる妄想が繰り広げられているか、誰も知りたいとは思わないだろう。――特にこの場にいる面々ならば尚の事だ。
日吉はといえば、何故だか無言で樺地と向かいあってシーソーゲーム状態。互いに無表情で一体どちらが誘いをかけたのか定かではないが、身体的対比からいっても当然の事で、片方に比重がかかったままぴくりとも動かない。
「・・・・・・・・・・・・」
公園の入口において喉の乾きを覚えた跡部は、付いてこようとする樺地を「必要ない」と追い払い、一人奥にある自販機の方へと向かった。そして自分の分と樺地の分の清涼飲料水を抱えて戻ってくればこの光景。くるりと背を向け、一人この場から脱しようと思わずにはいられない跡部だった。
とはいえ、ここで仲間達を放置していく事など跡部にはできない。目を離したら何をしでかすかわらかない連中だ。部長としては下手な恥を曝すわけにもいかず、責任をもって散らさなければならない。
「―――樺地」
「ウス」
「飲め」
「ウス。ありがとう・・・・ございます」
多言は弄さず。樺地は短い礼の言葉だけを発する。それでも樺地の言いたい事など跡部には手に取るようにわかるので、何ら問題のある事ではなかった。
「で、日吉よ。てめぇは楽しいのか?その状態」
「・・・・・・・・・下克上です」
「下克上の前に地に足つけろ。ったく、上ばかり見てると足元すくわれるってもんだぜ。・・・・あぁ、お前が見ているから大丈夫だって?樺地、あまり甘やかすんじゃないぜ?」
「・・・・・・・・・・・・」
甘やかしているのはどちらの方ですか、と文句を言いたい日吉ではあったが、高い持ち上げられた位置からそんな言葉を発しても間抜けでしかない。上から見下ろすというのは滅多にない状況かもしれないが、シーソーにまたがりぷらぷらと足を遊ばせた状態では何ともしまりが無い。唯一利点を上げるならば、跡部の位置からでは日吉の表情など見えぬ事ぐらいだろう。最も、表情など見えずともしっかり見透かしてくれるであろうインサイトが得手の部長に何を隠せるわけもないだろうが。
「まぁ良い。俺達氷帝を、そこからしばらく見物してな」
「ちょっ!助けてくださらないんですか?!」
「はっ!登った木から下りられねぇ猫かよ。樺地、しばらくそうしてろ」
「―――ウス」
樺地にとって跡部の指令は絶対だ。どんなに頼み込んでも、ここでは日吉の為には動いてくれなくなってしまった。残るはバランスを伺いつつ飛び降りる方法だが・・・・着地に失敗するなどして下手に怪我などしては泣くに泣けない笑うに笑えない。それに跡部は「しばらく」と言っていた。ここはそのしばらくの間、この状態を甘んじて受け入れるしかないだろう。
日吉は仕方なしに公園内をゆっくりと見回した。
下克上の相手と定めた正レギュラーの先輩達。そして、同じ立場から出場枠を競いあった滝先輩。口惜しい事にいつも日吉より前を歩いている同級生の鳳。何故だか不思議と彼にだけは反発心なるものが浮かばない樺地。そして―――いつだって眩しい程に光輝き、揺ぎ無い確かさをもって常に立ち塞がる跡部部長。
ああ、こんな風にゆったりと彼等を見つめる事などなかったと、いつも何かに追われるようにして自らを追い詰める自分の余裕の無さに気づかされる。
いつか、あの人達のようになれるのだろうか。自分はいつでもいっぱいいっぱいで、とうていそうなれるとは思えなかった。
その瞬間。
向けられていた背が、呼び止められたかのようにこちらを振向く。
ライトに照らされた白い顔がこちらを見つめている。
「同じである必要なんざねぇ」
聞こえぬ筈の声がそう囁いてきたように聞こえた。
[ date: 2007/02/25 ]
しんみりエピローグ。
|